天使と悪魔の子
「見てご覧」
リーフが茂みの中からあるひとつの館を指した。
「あそこで今夜パーティーが行われる。玲夜も今夜出席する筈だ。きっと君達が探している女の子もいる。」
『……パーティーって、貴族が集まるあの?』
「そうさ、大丈夫だよ。安易にはバレないようにリリイにはおまじないをかけてあげる。他のふたりは自力で頑張りな。」
そういってリーフは指を鳴らした。
何も変わっていない……のだが。
「……凄い、リリイの人間ぽさを全部消して本物の悪魔のようなオーラができてる。」
『……そう、なのかな?
でも私、ダンスは踊れないわ。』
「大丈夫、俺達がリードするよ。」
宙は笑って私に手を差し出した。
「エスコートしますよお嬢様。」
私は薄く笑ってその手を取る。
「じゃあ僕と猫くんは外で待機しているよ。もしもの場合のみ、助けに向かうね。」
リーフは私達に手を振り再び森の中へ消えていく。
夕紀は今でも信じられないものみている瞳でその影を見ていた。
『ゆ……アラン?』
「あ、いや…いこう」
夕紀は慣れない銀髪をかきあげて邸へマントを翻し歩いていく。
それに私達も続いた。
「ようこそおいでくださいました。招待状はお持ちでしょうか?」
招待状なんか勿論持っていない。
私達は招かれざる客なのだから。
それなのに宙は自分の懐から当然のように招待状を取り出した。
思わず声を出しそうになったが代わりに平然と彼の腕に手を組む。
「招待状は本物のようです。どうぞお通りください。」
あっさりと通れた門を抜け広い庭を見渡した。
薔薇が全部黒色だ。
『ねぇ、あの招待状は?』
「ん?さっきくすねたんだ。」
さらっという宙に突っ込む余裕もなく邸へ入る。
煌びやかな衣装に身を包んだ麗しい貴族達。
人間界とは比べ物にならないほどの様々な色の髪や瞳、肌の色。
「初めて見る顔だね。とても可愛らしい蕾のようだ。」
会場に入ってしばらくぼーっとしていると話し掛けられる。
私が返事に困っていると宙が助けに入ってくれた。
「我が妹は人見知りをする質で…。失礼はありませんでしたか?」
「あぁ、兄君がいらっしゃったのか。大切にされているようだ。悪い悪魔について行かないようにね、蕾ちゃん。ところで君の名は?」
『リリイです。』
「リリイか、いい名だ。」
男性は頷きながら去っていく。
その様子をまたもやぼーっと見送った。
「彼は伯爵だよ。今最も勢力を上げているルーツベル一族の長だ。」
『ルーツベル?』
「あれほど若くして優秀な者はなかなかいないよ。彼はきっとこれからもっと出世をしていく。ただ、少し問題があってね。」
そういうと宙は彼の背中を見た。
「ルーツベル伯爵様!」
「ナルシス様っ」
ぉ、おぉ、、
凄いモテっぷりだ。
見た限り彼もなかなかの女好きらしい。
ナルシス・ルーツベル
ナルシストなルーツベル伯爵
これで名前は覚えられそうだ。
「……リリイ、何か変なこと考えなかった?」
『秘密よ』
宙はエスパーなのだろうか。
まぁそんなことはさておき、私達の任務を果たさなきゃ。
『上に行ってみましょう。』
私達は会場を一旦抜けて2階へと続くレッドカーペットの敷かれた石畳を丁寧に歩いた。
先程の賑やかさは消え、広すぎるが故の空虚な邸に私達の足音が響く。
「あら?新入りさんかしら。」
「こんなに顔が綺麗な人達、早々忘れないもの。」
若い女性と三十代くらいの女性が私達を見て言った。
「えぇ、実は父が参加する予定でしたが急な都合で我々も初めてこのようなパーティーに参加するのです。」
「そうなの、おめでとう。
ではお父様のお名前は?」
「……ご婦人」
夕紀が女性に近寄り髪を掬う。
「男も女も、秘密が多い方が魅力的なものですよ。」
近付いた整った顔に女性達は顔を赤くして扇子で顔を扇いだ。
彼って、凄い悪い男ね。
夕紀は私達に目配せをして廊下を進む。
『……』
「……」
今の、なに。