天使と悪魔の子
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目から数滴涙が落ちた。
私は自分の力で空を飛び玲夜、私、瑠璃の順番で宙を舞っている。
自由に飛ぶことが許されない鳥は、もはや鳥にもなれない。
彼といれば私はなんだって出来る。
もう一度空を飛ぶことも出来る。
そう思うことで、私は今堂々としていられる。
「今から俺の家へ向かう。」
『……魔王のところじゃないの?』
「王にはまだ渡さない。時が満ちればだ。」
何を考えているの?
それって立派な、反逆じゃない?
王は私を捕らえろと命令しているはずなのに……。
「あそこだ」
玲夜が指で示したのは海岸の際にある小さな古城。
周りには何もない孤立した場所に建っていた。
森も草木すら生えていない寂しい場所……。
『ずっとあそこでひとり?』
「使用人もいる。」
そういう意味じゃなくて……。
「何をグズグズしている。降りるぞ。」
三人で古城の前に降り立ち扉を開く。
「お帰りなさいませレリアス坊ちゃん、ルリお嬢様。おや、その御方は?」
「客人だ、否、捕虜か…?とにかく丁重にもてなせ。」
「畏まりました。」
この城の執事と思われる白髪の背のシャンとしたご老人が丁寧に腰を折った。
「私、執事のシェラールと申します。なんとお呼びすればよろしいでしょうか?」
『ぁ、逢沢美影と申します。』
「美影お嬢様ですか。どうぞこちらへ、部屋へ案内します。」
柔らかな表情で頷く彼、なんだかとても不思議な気分だ。
てっきり牢屋にでも閉じ込められるのかと思っていた。
「魔法で髪色とかが変わっているな…まぁいい、見られても困るからそのままにしておこう。ルリ、着替えを手伝ってやれ。」
「はい」
シェラールさんの後を追って用意された部屋に辿り着くと、瑠璃が早速クローゼットを開き可愛らしい淡い黄色の膝丈ドレスを取り出した。
「先程も申しましたが、なにも警戒しなくても襲わないですよ。」
『貴女は、どうしてここに?』
名家の娘だと宙が言っていた。
それなら帰るべき場所があるはずだ。
「私は嫌われ者なのです。」
『え?』
「私の家はご存知でしょうが美食家として有名で狩りに関しては戦闘能力がぐんとあがります。
私はその中でも人一倍食欲が強く、好奇心も強かった。物心つく前には飼っていた犬を殺し、産まれて間もない兄弟を殺しかけてしまいました。
その強すぎる食欲で、我を失いたくさんのものを破壊してしまった。
そんな厄介者の私を、あの御方は嫌な顔一つせずそばに置いてくれたんです。私が帰るべき場所は、あの方の傍です。」
瑠璃が赤い目を細めて少し笑った。
彼女の食欲は災いをもたらしてしまった。
今でもその食欲は突発的に彼女の血を湧かせ、自分の意思に関係なく襲ってしまうのだそうだ。
「美影様、私は貴女の血に魅せられてしまいました。いつ貴女を襲うかもわかりません。そのときは迷わず、殺してもらって構いません。」
敵なのに
私達の敵なのに
今更やめてよ……
玲夜は悪いやつなんでしょ?
めちゃくちゃにしたくせに…
どうしてこんな、同情してしまうの。