天使と悪魔の子

シェラールさんに呼ばれて食間に案内されると、そこには豪華な食事が並べられていた。

「座れ」

玲夜は顎で彼の前の席を指して言った。

長いテーブルの端と端に座って彼を見る。

「俺の名は、レリアス。玲夜という名前はあちらの世界の愛称だ。好きに呼べ。」

『レリアス……貴方、どうしてそんなに変わったの?』

「……変わった?」

『初めて会った日、あんなに私に酷いことをしておいてよくもまぁ平然と食事を勧められるわね。』

嫌味ったらしく言ってやるとレリアスは笑う。

「あれは、あいつへの復讐だった。」

『復讐?』

「そう、お前の大好きな宙へのな。お前にあんな酷いことをしたのは、申し訳なかったと思っている。」

だから

やめてって言ってるでしょ。

どうしてそんなに、悪いやつでいてくれないのよ。

「それと、シェラールは片目が盲目だから少し疎い時があるが気にするな。」

大食いに盲目、きっと彼は身寄りのないものを集めたのだ。

それがどれほど嫌われ者にとって嬉しいことか、本人にはわからない。

どれほど凄いのか彼にはわからないのだ。

悔しいが、奴という存在はなかなかに素晴らしいものだった。

恨むことが出来ない煩わしさに、泣くことさえできない。

『最悪よ、本当に。』

こんなやつに捕まっても、恨めない。

「どうぞ、お召し上がりください。シェフが丹精込めて作り上げました。」

シェラールの後ろでシェフと思わしき女性が頭を下げた。

『えぇ』

玲夜もナイフとフォークを持ち丁寧に切って口に運ぶ。

「ドレス、似合っている。」

その言葉に私はもうどうしようもないこの気持ちを、吐き出さずにはいられなかった。

『どうして悪者でいてくれないの?』

「……」

『あんなに酷いことをして、友情まで壊して、今頃きっと日和は泣いてるっ。』

「恨むなら恨め、それを止める権利は俺にはない。」

『だから、そういうのがムカつくって言ってんのよ。』

ーパリンッ

私がテーブルを思いっきり叩くとお皿が床に落ちて料理が零れる。

それを見て、レリアスは何も言わなかった。

「美影お嬢様、危険ですので離れてください。」

シェラールさんの柔らかい声がその場を包み、張り詰めた空気が溶ける。

シェフと思わしき濃い赤紫色の髪の女性が素早く落ちてしまった料理を浮かせてその場を出ていった。

長い前髪で目は隠れていたが、きっとその目は潤んでいたに違いない。

「今夜は食事を切り上げよう。すまないルリ、後処理を頼む。」

「畏まりました。」

シェラールさんの前を通りすぎ部屋を後にする。

怒りをぶつける場所がわからない。

ふらふらと自分の部屋に辿り着きそのまま寝転んだ。

『宙……』

ゆっくりと目は閉じていきそのまま眠ってしまった。
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