天使と悪魔の子
『んっ』
夜中、私は目を覚ました。
なんとなく夜と昼の区別はつく。
夜になれば月はいっそう濃く赤く黄色く美しく輝き、きっと昼になるにつれて薄くなっていくのだ。
『ふぅ』
嫌なものだ
こんな時でさえお腹はすく。
ゆっくりと体を起こして廊下に出ると、いい匂いがした。
その匂いにつられて階段を降り、一部屋廊下の灯りのついている場所が見つけられた。
ーガチャッ
私は好奇心に煽られその部屋を覗く。
「ひゃっ」
すると女の子の小さな悲鳴がして、そのまま下に屈んだ。
『ごめんなさい。邪魔するつもりはなかったの。』
「美影様……?」
恐る恐る調理台の後ろから顔を出す彼女に笑いかけた。
『さっきは料理を台無しにしてしまってごめんなさい。』
「……いいえ」
『こんな時間まで料理を?』
「は、はい」
彼女は魔界特有の見たことない野菜達を撫でた。
「どうか、レリアス様を責めないでください。」
『わかってるよ、でも…そうせずにはいられない。』
彼女は黙って私を見たあと、ピンで長い前髪を留めた。
現れた薄桃色の目は今まで見たどの悪魔より純粋で美しい。
撫でていた野菜を丁寧に洗った後彼女は料理を始めた。
その動作はとても美しくさっきまでオドオドとしていたとは思えないほど手際がいい。
今日少しだけ口にした料理。
あれはとても美味しかった。
そんなことを思っていると、彼女はさっさと飾り付けをして私の前へ出す。
いや、早い、早すぎる。
「お嬢様がお腹を空かせていると思いまして、研究がてらと言ったらなんですが。」
準備をしていたってこと?
私は目の前に置かれた美味しそうな料理に喉がなった。
『いただきます。』
スプーンでそれを掬って口に運ぶ。
口の中に広がる温かさと野菜の旨み、とても美味しい。
「夜のご飯は女性は気にするので、ヘルシーに野菜スープを。」
隅の隅まで行き届いた気配りに感銘を受ける。
『貴女はいいシェフね。名前はなんて言うの?』
「わ、わだくしなんかにもったいないお言葉!!」
舌っ足らずで少し訛りのある話し方が可愛らしい。
「シェリーと申します。」
『……チェリー?』
「シェリー、シェリーです。」
『シェリーね。』
からかっているつもりはないのだと笑いかける。
そうするとシェリーは楽しそうに笑ってくれた。
こうやって、敵のことを知るのも大切なのかもしれない。
いや、もはや敵と呼んでいいのかわからない。
彼という存在に…私は後々助けられる。