天使と悪魔の子

あれから数日

馴染みすぎて、親しみすら覚えるこの古城。

『ん?』

私は自分の部屋の隠された仕組みに驚いた。

クローゼットの後ろから少しだけ風が吹いている。

重いが魔法をかけて軽くし、横へ退けた。

『隠し扉?』

少し周りとは色や配列が違う部分がある。

そこを押してやると、やはり扉になっていた。

中には階段があり、そこを下ると等身大の鏡がある。

鏡は移動手段

それをわざわざ私の部屋へ用意されているなんて

まるで逃げてもいいと言っているようだ。

捕虜といいながらも丁重に、

乱暴ながらも優しく、

本当に不器用だ。

そういうところが少しだけ宙と似ている。

「その鏡は俺が特殊に加工したんだ。」

『……特殊?』

突然後ろに彼が現れてガラスに触れた。

「こちら側しか使えない。敵はここからは入ってこれない。そして、俺の認めたものしかこの鏡を使えない。……逃げたくなったか?」

『いいえ、寧ろ貴方達のことをもっと知りたくなってきた。』

そういうと目を丸くして、そして滅多に見せない本当の笑顔を見せた。

「そうか」

今まで彼がしてきたことを許したわけではない。

でも、少しはレリアスのことを理解したつもりだ。

「戻るぞ」

そういって階段に足をかけた瞬間、なにか大きな力が近付いてきた気がした。

私でも感じる強いオーラに、少しだけ体が凍ばる。

レリアスが玄関に向かうのに恐る恐るついて行くと、そこには見知らぬ顔があった。

「レリアス!最近全然顔を見せないものだから私の方から来ちゃったわ。」

可愛らしく肩を竦める彼女を見てレリアスは大きく溜息を吐いた。

誰、あの超美人。

「ミリーナ……」

髪の毛の色がレリアスと一緒だ。

ウェーブした白銀色で毛先が少しだけ青い綺麗で透明感のある髪に青い瞳。

『宙のお姉さん?』

「えぇ、貴女は美影ちゃんね。
私はレリアスと母も父も同じで四兄弟のうちの唯一完璧な兄弟なの。」

宙、レリアスの他にも兄弟がいたのか。

「どうしたんだ?」

「なにかなくちゃ来ちゃいけないの?
私は可愛い弟に会いに来ただけよ。」

ふんっとそっぽを向いて拗ねたふりをしたと思うと今度は私の方を見て目を輝かせる。

「貴女お肌綺麗っ、それにすごく可愛いわ。」

『は、はぁ』

「どう?私の嫁に来ない?」

『遠慮させていただきます…』

「ミリーナ、どうせ執事と喧嘩でもしたんだろ?」

レリアスが助け舟をするように話題を変えた。

「もうっ、あのばか執事ぃー!!」

またミリーナさんは顔を赤くして今度は涙ぐむ。

忙しい人だ。

シェラールさんも何も言えないのか隅の隅の隅の方でこじんまりと佇んでいる。

このお城には本当にレリアスとシェラールとルリ、シェリーしか住んでおらず、とても寂しかった。

だがこうしてミリーナさんが来ているなら、少しましに思える。

「んー久々にシェリーちゃんの料理食べたいなぁ。美影ちゃんその間喋り相手になってよ。」

突然話題を振られて私は慌てて頷いた。

いや、話し相手……。

そう思っている間もなくズルズルと部屋に引き摺られる。

それをみてルリは安堵の息を漏らした。

< 131 / 262 >

この作品をシェア

pagetop