天使と悪魔の子

「美影ちゃん」

部屋に入ってベッドに二人で腰を落とす。

ミリーナさんのさっきまでの笑顔はすっかり消えて、長い睫毛を伏せていた。

「私、愛している人がいるの。」

『愛している人ですか?』

「たまたま、人間界に興味本位で向かって、出逢った男よ。その人、私の髪色とかを見て全然驚かなかった。それにあの人、生きることを諦めていたみたい。」

ミリーナさんが愛したのは人間

でも人間との恋はこの世界ではタブー

いや、もしかすると魔界はOKなのかもしれないが……。

「どうしても彼のことが気になって魔界へ執事として呼んだの。愛しているのは私だけよ。私が勝手に連れてきて、彼の決断を踏みにじった。死ぬという決断を……。」

『……それで悩んでいるんですか?』

「もし私が引き止めなければ、彼は今この世にいなかった。でも、そうした方が幸せだったかもしれないわ。」

『……』

私は少し黙って、立ち上がる。

『その人、絶対そんなこと思ってないです。
きっとすごくすごく救われたと思いますよ。』

「でも……」

『私、つい一ヵ月前まで死んだように生きていた。死のうってよく考えていた。感情が全くわからなくなってしまっていた。』

そう、過去の自分。

『でも、貴女の弟に、宙に救って貰えました。
正直鬱陶しく思ったことはありますが、嫌ったり、ましてや恨むなんてことないです。
彼のおかげで今がある。この世にある今感じる全てのものは、彼のおかげなんです。』

くるりと回って彼女に笑いかける。

『だからそんなこと思わないで。貴女が笑顔じゃなきゃ、私は不安になってしまう。』

宙に語りかけるように、彼女の心に訴えた。

「……美影ちゃん」

『貴女は私達のヒーローなんですから。』

はらはらと目から雫を落とす。

その姿はとても美しく、思わず体が震えるほど。

「そうね、彼のところに戻らなきゃ。」

ミリーナさんは突如立ち上がって窓枠に足を掛ける。



「レリアスによろしく言っておいて。」

可愛らしくウインクをすると真っ黒な翼を広げて飛んでいく。

嵐のような人だった。

思わずポカンと開いた口を閉じて、そのままベッドへ寝転んだ。

悪魔って、そんなに悪い人ばかりではないのかもしれない。

いや、もしかしたら宙の兄弟だからかな?

なんて思いながら目を閉じた。

宙、貴方は今どうしていますか?

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