天使と悪魔の子
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夕食時
食間に全員が集まっていた。
シェリーの美味しいご飯を口に入れるととろっと噛まなくてもいいほど柔らかい肉が蕩けて舌の上に広がる。
しっかりとした肉汁とシチューが最高の比率で絡み合い、互いに旨みを引き立たせていた。
『ほんとにシェリーのつくる料理は最高。』
「あ、ありがとうございますっ!」
「私も、シェリーの料理大好き。」
何故か隣にミリーナさんがいて、満足そうに笑っていた。
また喧嘩したそうだ。
ここまでくるとただの痴話喧嘩ではないか…。
でも前回の喧嘩は結構荒れたらしいから、今回は軽そうでよかった。
ードオオォオオオオン
突如として大きな音が響き、古城が微かに震えた。
いや、なに?
「扉が破壊されたっ!?」
ルリも焦っているようで少し汗をかいている。
「落ち着け」
レリアスは冷静にそう言うと、ミリーナさんに目配りをした。
「美影を頼む」
「えぇ……」
ミリーナさんがレリアスの頬にキスをして抱き締めた。
「じゃあ、行ってくる。」
レリアスは何も言わずに、ミリーナさんに手を引かれる私を見ていた。
その時、今までにないほどの不安が押し寄せ、心に黒いモヤがかかる。
「シェリー、お前も行け。」
「え……どういうことですか?」
「いいから、行け。」
シェリーは私達のあとをついてきた、時折振り返って主を確認している。
「ルリ、シェラール…お前達はどうする。」
「いいえ、私達はここに残ります。」
「最期までお供しますよ。といっても私は老人なので早く死んでしまうのですが。」
なんだ
なんなんだこの話は
ミリーナさんの私を掴んでいる手が微かに震えている。
『なにがあったんですか』
あまりのスピードに息を切らしながら精一杯足を回転させる。
「とにかく、ついてきて。」
そういって一瞬で辿り着いた私の部屋、そしてミリーナさんが腕を横にスライドすると同時にクローゼットが捌けて、その奥に隠された扉が開く。
滑り込むようにそのままの勢いでそこに飛び込んだ。
ここはそう
隠し扉の奥の鏡の間
ミリーナさんが鏡に手を当てて何かを念じている。
その間にも外からいろんな音が聴こえた。
時には銃声、怒号、たくさんの足音。
戦闘をしているのか。
「ど、どうしたら…」
シェリーは状況がわからないようだ。
私もわからないが、どうやらレリアスとシェラールは知っていた風であった。
「こっちだ!」
すぐ近くで声が聞こえる。
流石に私も心臓の鼓動が嫌に早まるのを感じた。
「来て!!」
ミリーナさんが私を鏡へ押し込んだ。
するとここは何処だろう
ぐにゃぐにゃとした世界
私は空中に浮いていて、さっき通った鏡もそこらへんをふらふらと浮遊している。
そこからまたシェリーとミリーナさんが出てきて、そのままガラスを内側から壊した。
「……危なかった。」
ミリーナさんは疲れたようにキラキラと消えていく割れた鏡を手で追いやった。
「ここは私が作ったちょっとした時空の狭間。内側から鏡を壊してもあの古城の鏡は割れない。まぁ長くはもたないから、逃げる場所を探さなきゃなんだけど……。」
ミリーナさんはどうするか迷っているようだ。
「え、あの、レリアス様は……」
シェリーがもう泣きだしそうなほど目を潤ませる。
「残念だけど、捕まったはずよ……。」
「そんな……!」
「感じてるかもしれないけど、攻めてきたのは超強者。私と同い歳で腹違いの兄弟…。」
『兄弟……?』
この兄弟は四人兄弟、でもまさか今回攻めてきたのも兄弟の一人だなんて…。
「ラミア」
ミリーナさんは綺麗な眉を歪めて爪を噛んだ。
「ラ、ラララミア様がっ!?」
シェリーさんも顔を真っ青にして頭を抱える。
そんなに強いのか…?
「怯まないで、私達はどうにかして逃げ切らなきゃならないんだから。いや、美影ちゃんさえ生きていればそれでいい。」
ミリーナさんは縁起でもないことを呟いて空間に手を翳す。
今、何が起こっているのか正直理解出来ない。
レリアスの古城が兄であるラミアさんに襲撃され、私達はここまで逃げてきた。
ラミアさんに捕まれば終わる…。
「道は開いた。とりあえず、ふたりはこれを着て。」
ミリーナさんが指を鳴らすと宙に黒いマントが浮いている。
「これから先、信用できる人は誰もいない。」
頷いて空間の歪みに飛び込んだ。
レリアス
どうして貴方は私を庇ってくれたの。