天使と悪魔の子
ミリーナさんの作った時空の狭間を抜けて、私達は
山に出てきた。
山と言っても木は闇を力として成長する黒い木々。
ただ、リーフの森とは少し違う。
喋らないし動かない、葉も茂っていないどころか生えてすらいない。
至る所から聞こえる野獣の遠吠えに身震いした。
「ここに野宿は厳しそうですね…」
シェリーは案外逞しくまわりを観察している。
「そうね…宿を探しましょう。」
『宿って、こんな山奥に…しかもこんな恐ろしい場所に住んでいる人なんているんですか?』
「こんな場所だから、物好きも住んでいるものよ。」
ミリーナさんは果敢に山を散策し出した。
シェリーも何か食べれるものはないかと探しながら歩いている。
彼等は本当に逞しい。
「あ、見てください!」
シェリーが木の上に立ってある場所を指さしていた。
あんなにおどおどした可愛らしい子でも、身体能力は抜群らしい。
彼女のことを侮っていた。
「本当ね、行ってみましょう。」
月が恐ろしいほど近く、その光に照らされる一軒家。
ーコンコンコン
ミリーナさんが扉を叩くとゆっくり扉は開いた。
「なんだお前ら」
髭を生やして髪を後ろで纏めた下界で言うダンディな男性が眉を寄せて私達を見下ろしている。
「少し旅をしているの。一晩だけ泊めていただけないかしら?」
「……見たところ身なりも顔つきもいいとこの嬢さんだろ。俺は面倒なのは嫌いだ。」
扉を閉めようとする男性に、笑顔でミリーナは扉を掴んだ。
その時、少し木が砕ける音がした。
「女の子をこんな山奥で野宿させるなんて、貴方こそ男としてどうなのよ。それにこんな可愛い女の子達と寝れるなんて、もうこれから一生ないわよ。」
ミリーナさんなかなか直球というか容赦がない。
男性は煙草を口にしながら鼻で笑った。
「言ってくれるねぇ」
『……』
「んじゃーそこの嬢ちゃん、代わりにその髪、くれよ。」
はっきりと私を指して言った男性にふたりは構えた。
私の髪は魔法さえ解けば元に戻る。
元に戻ればどれほどの価値かわからない。
神様と同じ髪色なのだから。
「何も無理強いはしねぇよ、嫌ならそのまま山に戻ればいい。だが、俺の方がマシかもしれねぇぞ。悪魔の取り引きは高くつく。」
『……わかりました』
「髪と言っても女の髪だからそんなに切らなくてもい…」
男は私を見て止まった。
ポロッとタバコを地面に落とす。
まったく、危ないじゃないか。
ージャキッ
マントの内側についていたナイフを使って首あたりで髪を切った。
手に持った大量の髪束を男に差し出す。
『これでいい?』
セミロングの髪が一気にショートボブくらいのザク切りヘアになった。
さっぱりしたな。
「いやいやいや美影ちゃんなにして……」
「くっ…ははははは!!」
呆気に取られているミリーナなさんを置いて男は大口を開けて笑った。
「思い切った奴は嫌いじゃないぜ嬢ちゃん。
わかった、家に泊めてやる。」
男性が家の中に入っていくのを見て三人で頷いた。
今日は野宿をしなくて済みそうだ。