天使と悪魔の子
ゴンっと寝ていた椅子を蹴られて目を覚ました。
「起きろ」
「なによ、まだ早いでしょ!」
「静かにしろ」
『なにかあったんですか?』
男は私達にマントを押し付けて外への扉を開いた。
「状況が変わった。どうやらお前達の後をつけてる奴がいるらしい。山のザヘル達が騒がしいんだ。」
「そんな、早すぎるわ……」
ミリーナさんも予想外だったのか爪を噛む。
「すまねぇが、お前達とはここでお別れだ。厄介事はごめんでな。」
「……貴方も、来てくれないかしら。」
ミリーナさんが思いもよらぬことを言う。
え、この人、信用できるの?
「貴方、前王国騎士団団長でしょ。王に刃向かって破門にされた…。」
え、
騎士団団長……!?
ラミアという宙のお兄さん、その前任が彼だったのか。
「貴方がいれば心強いわ。」
男の瞳は一瞬揺れたが、また目を澄ました。
「いや、いかねぇよ。俺はとうに現役は引退、騎士なんてもうやってられねぇ。」
「そう……」
ミリーナさんは男に背を向けて立ち去った。
確かに彼がいれば心強かった。
昨日シェリーに整えられた髪を揺らしながら、山に姿を隠した。
「急ぐわよ」
私は自分の脚に呪文を唱えて強化する。
彼女達の足を引っ張りたくない。
猛スピードで山の木々を避け走り続けた。
「街が見えるわ」
ミリーナさんが一息ついてマントのフードを被った。
それを真似して、街に降りる。
「いい?私から離れないでね。」
私はポケットから香水を出して何度かかける。
リーフに人間ぽさを消してもらっていてもやはり心配だ。
フードを私も目深く被って俯いた。
テンポよく歩くミリーナさんの後を姿を見失わないように歩く。
幸い早朝だからか街を歩いている人はいない。
ーキャギャギャ
足元をぴょんぴょんと小型のゲイル達が走り抜けていくのを見る。
あれは子供か?
「王都からかなり離れた場所にある小さな街よ。
ここはまだ安全かもね。」
ータッタッタッタッ
何かの足音が聞こえた瞬間ミリーナさんは私を引っ張って物陰に隠れた。
「地方貴族の兵の見回りよ。ここまで情報が回っているなんて…。」
壁に沿って息を潜ませた。
ータッタッタッタッ
近い
ータッタッタッタッ
黒い兵服を纏った女性、男性が背中に黒い羽根を生やしてあたりを見回した。
ひとりがこっちを振り向く直前、私は飛び上がった。
正確にはミリーナさんに持ち上げられて上昇したのだが。
ーバサッ
大きく翼が動くとそのままその場をあとにする。
「危なかったぁ」
シェリーも安心して胸をなで下ろした。
『地方だけでも兵はいるんだね。』
「私にしたら弱っちいけど、ここの村にしては脅威。それに報告なんかされたらたまったもんじゃないわ。」
私も魔法で空を飛んでミリーナさんの手を離れた。
「お腹すきませんか?人間は三食食べるものだと聞いております。」
『大丈夫、そうかシェリー達はお腹空かないもんね。レリアスの家では皆食事をしていたからあまり感じなかったな。』
「レリアス様は人間を愛してらっしゃいますから。」
私は目が飛び出そうになった。
彼には悪いがすっごく嫌ってそうだったからね。
「我が弟ながら不器用だからなぁ。」
ミリーナさんも苦笑いしていた。
でも、そんなレリアスは今頃捕まっているはずだ。
ふたりは少し悲しい表情をして空中散歩を終えた。