天使と悪魔の子
宿主にお金を払って鍵を受け取った。
「二階の突き当たりの部屋だよ。」
一歩進むと床がギィと軋む。
なかなか年季の入った建物だ。
逃亡生活も大変らしい。
ーギィッ
中に入るとひとつのベッド、毛布が三枚。
いや、そんなに小さなベッドで寝れないでしょ。
「仕方ないわね」
ミリーナさんは毛布を持って床に寝転んだ。
とても綺麗とは言えない床。
ミリーナさんをこんな床で眠らしていいものだろうか。
今日は散々だった。
あの後あそこの貴族に見つかり追われて、山の猛獣に襲われ、やっとのことこの街に逃げてこられた。
私はシェリーにベッドを強制的に譲って(遠慮するから)床に寝転がる。
シェリーの寝息が直ぐに聞こえてきた。
私も寝ようと目を閉じる。
「美影ちゃん、起きてる?」
『はい』
瞼を開けるとミリーナさんの綺麗な顔がすぐ近くにあった。
「人間界で宙は…どうしてた?」
『私が彼と出会ったのはつい一ヶ月前の話です。彼は誰よりも真っ直ぐで、繊細で、秘密主義者。たくさんのことを教えてくれる私の救世主でした。
人外だということは全く感じないくらい笑顔が多く純粋で、友だちもできた。彼もすごく、楽しそうでした。』
「そう……私、お姉ちゃんなのに何もわかってあげれなかった。」
ミリーナさんは寂しそうに長い睫毛を伏せて毛布を引き寄せる。
『ここではどんな感じだったんですか?天界に行く前は…。』
「そうね…レリアスとは犬猿の仲だったけど、時々顔を見せに来てくれたの。……全く、笑わない子だった。」
え……?
宙が笑わないの?
あの宙が…?
思わず聞き返したくなったが、その悲しそうな顔をみて悟った。
本当なんだ
「あの子が突然神界に行くと言い出した時は正直驚いたの。でも、ここよりもいい場所なら……」
そう言っている最中に彼女は限界が来たのか眠った。
ミリーナさんは凄くいいお姉さんですよ。
毛布を掛け直して、私もそのまま眠った。