天使と悪魔の子
翌朝、目を覚まして周りを見回した。
ふたりともまだ寝ていて、起こすのが躊躇われる。
昨日ミリーナさんに買って貰った動きやすい服を着て、身支度をする。
「んんっ美影さま?」
シェリーが目を擦って体を起こす。
「わ、わだくし、ミリーナ様を床で眠らせて……!!」
顔を青くさせているシェリー、その声を聞いてミリーナは上体を起こした。
「おはよう」
乱れた服から豊かな胸が少し見えて、目のやり場に困った。
こんなに美人な人、モデルさんにもなかなかいない。
世界で最も美しい顔!みたいなランキングの上位にいそうなほど綺麗だ。
「……静かね」
ミリーナさんはぱっと着替えをすませて武器を忍ばせた。
『朝ですからね』
「いや、静かすぎるわ」
シェリーも何かを感じているのか部屋の前に屈み込む。
窓から私が外を眺めた瞬間、ミリーナさんは私を床に倒した。
「伏せて!!」
ーガンッ
部屋のドア、窓が破壊され扉から兵や村人達が武器を持って立っていた。
「まだ王国騎士は来ていないわね」
安心したように言っているがなかなかのピンチではないだろうか。
「うわあああ!!!」
男達がシェリーに襲いかかる。
シェリーは自分の懐から武器なのかイナズマのようにかくかくとうねったナイフを取り出して一瞬で切りつけた。
「美影様には、指一本触れさせはしません。」
いつもとは違う眼をした彼女は冷たく言い放った。
一方でミリーナさんは窓から襲ってきた的を氷で作った剣で迎えていた。
頬が氷を纏っていて、とても綺麗だ。
いや、こんな時に思うことではないのだが本当に綺麗……。
ふたりともすごく強い。
ただ、この部屋が狭いのが難点だ。
このままではおそらく捕まってしまう。
袋の鼠
まさにこの言葉がぴったりであろう。
なんとか対抗したいが光魔法ではふたりを傷付けてしまうし闇も彼等にとっては大好物。
レリアスの屋敷で気付いたことは、私は光や火の魔法が得意。
逆に水や風、地などは不得手
そしてそういう自然の魔法以外にもたくさんあるのだが勉強不足であまりわからない。
力魔法はレリアスの得意分野で……それぞれ個性がある。
私にはわからない。
今考えてわかるはずもない。
『“道を開けろ”』
口から言葉が出てくる。
自分で言って驚くのも変だが、その場が固まるのを感じた。
『“開けろ”』
「ひいっ!」
村人のひとりがその場に尻もちをつき、武器を構えていたもの達が壁にそって道を開いた。
「え、うそ」
ミリーナさんはぽかんと口を開けてその様子を見ている。
私は躊躇いもせずにその道を進む。
「待て」
目の前に現れたのは女兵だった。
背の高く威圧的に上から見下ろされる。
『“ふっ、中等兵か…道を開けろ。”』
口から出てくる言葉が自分でも止められない。
「くっ」
なにかに抗っているのか女は身体をふるわせている。
しかし、その場に膝をついて頭を下げた。
宿を出る直前、店主の老婆が震えてこちらを見ているのに気が付く。
「き、金の目……!本当に、お前は」
心底怯えているのか、何も言わずに私は去ってやる。
この町を大急ぎで抜けると、ミリーナさんは感嘆の声を上げた。
「すごいわ!!」
『…へ?』
「美影ちゃん、貴女気付いてないかもしれないけど“言霊”の力を持っているのかも……!」
『言霊?』
言霊ってあの、言葉の中に霊力があるみたいなやつ?
「そう!神様となるべき人物が獲得すると言われる力よ。」
『か、神様!?』
神様は私の祖父であり私ではない。
まさかそんな大それた力が私に?
「言霊はね、言葉にするだけで現実になる。恐ろしい言葉の呪い。使い方によれば世界すら滅ぼせる。だから神様となるべき人物にしか現れない超強力な能力なの。
私初めて見たわ。」
『そ、そんな能力が…』
「まだ力は弱いけど、自分を見つけられた時、それは完全になる。」
『自分を、見つける……』
忘れている記憶
不完全な自分
それを埋められれば、強力な武器に…。
「あの、急いでここから逃げなきゃ王国騎士が……」
シェリーが汗を垂らして言った。
確かに、今ので完璧に場所がバレた。
「“氷宝石”」
ミリーナさんは唱えて氷を出現させた。
それは鏡のようになって私の顔を写す。
「移動しましょう」
ミリーナさんは私達の手を取って氷の中へ足を踏み入れた。