天使と悪魔の子
「美影」
『宙っ、宙、宙っ、そらぁ』
泣きたくなるのをぐっと堪える。
「美影」
宙はそんな私を優しく抱きしめてくれた。
『会いたかった。すごくすごく、とっても。』
言葉じゃ足りないこの想いを、どうやって伝えればいいのか。
「俺も」
優しく頬を撫でられる。
その手の暖かさ、大きさ、感覚、匂い。
全部が懐かしくて、どうしようもなく愛しい。
「俺も、会いたかった。」
宙に膝から抱えられると地下とは反対の屋上へ進んでいく。
長い塔の階段を昇るにつれて、私の心拍数は上がっていった。
それは会えた嬉しさと、ラミアが来ないかという怖さ。
『レリアス、ミリーナさん!!シェリー、ルリ、シェラールさんも!!』
塔の上に到達した私は周りを見て驚いた。
どうしてここへ?
そう思って見渡すと夕紀が塀に立って笑っている。
『夕紀っ』
「逃亡作戦、実行だな。」
レリアスは宙達が気に入らないのかそっぽを向いて立っている。
でもそんなに、上手くいかないのはこの世界の残酷なところ。
「どこへ行くつもりだ?」
空中には私達を取り囲むようにどの方向にも騎士達がいる。
しかもラミアがその中心に立っていてどこにも行けない。
「囲まれちゃったわね。」
ミリーナさんはわかっていたのか悲しく微笑んだ。
「“転送獣夢鳥”」
そう言った瞬間、彼女の周りに美しい七色の鳥が出現し、鳥が陣を作り出す。
なんとも美しい光景に、周りも手を出せないでいた。
「時間を稼いで」
ミリーナさんが苦しそうに肩で息をする。
「かかれっ!!!!」
ラミアの雷の大剣が掲げられる。
その瞬間雷鳴が響き地面が揺らいだ。
どれだけの魔力なのか想像もつかない。
「“地針山”」
レリアスが塔を殴ると、遥か下の地面からそれこそ針山の如く空に浮いている騎士達を貫いた。
すごい
それを見計らってかシェリーがその針山の先端部分をもぎ取って力任せに振り回し敵を地面に打ち付ける。
なんという力技
あんなの伊達に食らったら普通の人ならイチコロだ。
「“血の花”」
ルリが指を鳴らすと、針山からいくつも花が出てくる。
相手は何が起こったのかわからない様子で馬鹿にしたようにルリを見ていた。
「侮るな」
ラミアの声も聞かずに騎士達が花に向かって剣をかざそうとした瞬間、その花は開花して騎士達を食らった。
『えっ』
「ルリの得意技、あれは魔界の花で血を喰らう花だ。食肉種の植物だよ。」
宙は私を片手で引き寄せもう片方の手で剣を構える。
今のところ塔に近づける者はいない。
凄い
本当に強いっ
「雑魚共が」
ラミアの恐ろしい程低い声が聴こえた。
その目はルリの目よりもどす黒く赤い。
それと目が合った時、正直死ぬと思った。
ーキーンッッ
「くっ」
「俺の剣を受け止めるとは、成長したな。」
え?
瞬きをしている暇もなく目の前には彼がいた。
狂気的な笑みを浮かべながら全身に電流を走らせている。
その速さはまるで、稲妻のよう
「宙っ」
夕紀がそれを見てか宙と共に立ち向かう。
私は邪魔にならないようにそこを離れた。
「はぁっ…はぁ」
ミリーナさんを守るようにシェラールさんが構えている。
私も、闘いたい。
言霊は今の私では力不足だ。
私は魔女だ。
この場にいる誰よりも
何よりも
魔法は優れているはずなのだ。