天使と悪魔の子
「エリーはさー退屈で退屈で仕方がなくて、壊したくてたまらない。だってつまらないじゃないか、平和ボケした連中を見ていたら虫唾が走る。」
エリーゼは細く小さな掌で大鎌を前に突き出した。
「いつでも出来る」
『……!!』
思わず止めようと手を伸ばした。
だが、その手を静かに下ろして手を握る。
「いっがーい!!止めないの?」
『私も……同じことを考えていたから。』
「……は?」
エリーゼに押し倒され首元に大きな鎌を宛てられた。
「なにより、面白くない冗談だ。」
『冗談……?そっちの方が笑えないわ。』
私は大声を出して笑った。
狂ったように笑い出す。
まるでエリーゼのようだと自分でもおそろしくなった。
『私も、平和ボケした連中が大嫌いだった。何笑ってんだよ、何でお前なんかが幸せなんだよ。なんて幼稚なこと考えていたわ。正直、こんな世界消えてしまえと呪ったわよ。呪って呪って呪って、残ったものはなにもない。気付いたら呪っていたことさえ忘れて、人形みたいにただ呆然と生きてきた。』
自分のことを呪って、忘れてしまった。
偽の記憶に支配されて…本当馬鹿みたい。
『みんな、苦しんでたのに。』
「なんの話……?そんなのどうでもいい」
『そうどうでもいい』
所詮
他人事なんだから
私も誰かから見たら恵まれた生活だったかもしれないし、平和ボケしてるように見えていたのだろう。
それならエリーゼ、君も平和ボケしてるんだ。
それに気づいているから貴女はいらいらしているんでしょう?
『私が貴女の捌け口になってもいいよ。』
「なにいってる……さっきから話にならない。」
彼女の鎌を掴んでゆっくりと押す。
『一緒にみつけよう、生きる意味を。』
「意味?そんなのあるわけない。僕ら天使は尚更ね。神のために生き、世界を守るために戦い命を落とす。それ以外に意味なんてない。」
『そんな理屈、壊して新しい意味を見つけるんだよ。エリーゼは緋の神殿の守護者だ。他のどの戦士よりも強く狂気的だ。もしかしたら神は貴女に壊して欲しいのかもよ?この世界を。そうじゃないとわざわざこんな危険人物を守護者に命じないわ。』
エリーゼはぽかんと口を開けている。
こうしていると、本当にただの子供のようだ。
「変なやつ」
戦意消失したのか寝っ転がって大鎌を空中に浮かせて遊んでいる。
『エリーゼの部下ってどんな人なの?』
「んーエリーの部隊に志願する人はめったにいないんだなー。たまに来る奴はよっぽどの戦闘狂だよ。」
まぁ、確かに
失礼な話だが彼女の部下になりたいってひとはよっぽどすごい人なんだろうと思う。
「だから僕の隊は強い。他の隊の副官クラスがぞろぞろいる。だから緋の戦士は神界の番人、特攻部隊って呼ばれてる。」
エリーゼは何か面白いことはないかなーと頬に手を当てて宙をくるくるまわり始めた。
緋の戦士か、今度見に行ってみようかな。
副官クラスって、エリックみたいなのがいっぱいってことだよね。
下手すりゃ四大天使より強いのもいそうだ。
『エリーゼ、私の剣になってくれませんか。』
「剣……?エリーは誰の指示にも従わない。」
『命令はしないわ。貴女はきっと敵が来たら喜んで迎え撃つんだろうけど、やっぱり私は一緒に戦いたい。』
「じゃあその代わり、アリシアは何を僕にくれる?血?目玉?それとも魂?」
私は馬鹿にするような彼女の目を見て笑ってやった。
そして大きく手を広げて叫んだ。