天使と悪魔の子

最初に飛び出したのはやはり彼女だった。

この場にいる誰よりも幼く強いエリーゼ。

その後ろに負けじと続くのは緋の戦士で他の隊より遥かに人数はすくない四十名ほどだったが周りに引けを取らない。

それにその目は全員狂気的で挑戦的で、なにより楽しそうだった。

その後ろにはアスタロッサの隊が続くが緋の戦士の邪魔にならないように少し後ろを飛んでいる。

「クックックッハハハハハ!!!……燃えろ」

エリーゼが目を見開くと稲妻が彼女達の間を通り抜けた。

大きな鎌を敵がまだいない場所で素早く横に振り翳す。

それだけの動作だったのに

ードカッボボボボボボボボ!!!

大きな爆発音と共に敵、悪魔やザヘル合わせて百体程が一気にぶっとび、そして燃えた。

『す、すごい』

立った一振、一振で彼女なら国ひとつを滅ぼせる。

獄炎の中で彼女は血を浴び高揚した頬で大鎌を抱きしめた。

「あははは!!!たーのし」

その後に続いて緋の戦士が次々と敵を倒していく。

強すぎる

そんな様子を靑の戦士や翠の戦士でさえ呆然と見ていた。

魔界の軍は天使よりも圧倒的に多い。

悪魔や魔獣に加えホコリほどのザヘル達でさえ参加しているのだ。

対して私達は天使と幻獣、神獣達。

一万程の魔界軍と千程の神界軍

圧倒的な差だが、エリーゼを見ていると全然勝てそうに思えてきた。

彼女が敵じゃなくて心底安心する。

ふと、光るものが見えた。

それは稲妻のように速く、こちらに向かっている。

間違いないあれは……

そんなことを考えている暇もなくそれは目の前にいた。

ーガキンッ

『……っ!!アスタロッサさん……!?』

「お前のその腕じゃ受け止めきれない。行け、こいつは俺が相手だ。」

『ありがとうございます!!』

私はエルと共に先に進む。

ラミアが忌々しそうにアスタロッサを見ていた。

「邪魔をするな」

「邪魔をしているのは貴様だ。大人しく散れ。」

なんだか、あの二人は心配なさそうだ。

獣化したエルの背中に飛び乗ってそのまま上昇する。

私は大きく息を吸って長銃を皆より高い位置から構えた。

『“自然召喚融合魔法”』

軽く親指を噛んで長銃側面に血を捧げる。

『“太陽の精霊よ、悪しきものを払え”』

ーカチッ パァアン!!!

爆弾のようなものが弾けた音と同時に、目が眩むような光と温風、そして見えるものはいないだろうが大きな太陽の精霊がその場を駆け抜けた。

よく人権学習などで見せられた大型爆弾が弾けるあの瞬間が蘇る。

「うぁああおあああ!!」

「ひぃいいいいいァァァァ!!」

弱い悪魔達やザヘル達はその光に焼かれて消えていく。

これでだいぶん数は減ったはずだ。

「「援護します!!」」

『ありがとう』

同じ隊の二人の天使に向かって微笑む。

私が銃を再び構えた時、悲鳴が聞こえた。

「うぐっ」

「ひっ」

『なに!?』

さっきの天使達がいない……?



下を見ると落下していくふたりがみえた。

一体何が……

「アリシア!!」

エルの声が聞こえた瞬間、彼が大きく揺れた為上から降りて宙に浮く。

何が起こっているのかわからない。

だけどエルが私をふわふわの毛で包み込んで守ってくれていた。

『なにがあったの?』

「あのラミアとかいう奴には劣るがとてつもなく速い
、風使いだ。」

じゃあ落ちていったふたりはさっきの一瞬で……

「これはこれは……クリーチャーとかいう神の次に強い最強の神獣とは貴方のことですね。私、魔界王国騎士団第二部隊長、魔界の隅々までの監視担当のフェネロペと申します。突然ですが、死んでください。」

ーカッ

「なっ」

「とんだ戯言を、おまえのような外道にやる命はない。」

す、すごい

エルは人型になって人差し指で剣の先端を止めた。

そしてそのまま弾けて消える。

「お前らみたいな雑魚、真の姿になるほどでもないね。」

「くっ」

フェネロペはすぐさま離れて自身の手を見ている。

「ロンド……ロンド今すぐここにこいっ!!!」

フェネロペが叫んで数秒後、全身に刺青のようなものが入った小柄な美少年とその後ろにツインテールの美少女が来た。

「貴様らも加勢しろ。」

「……りょーかい、俺は王国騎士第三部隊長、監獄の取り締まり兼調教係のロンド。」

「私は副長のEG、あんたみたいな美少年もタイプだけど、私は可愛い女の子の方が好みよ!そこに隠れている子、アメリア様でしょー?とっても美味しそうね。」

EGと呼ばれた女の子の瞳が一瞬赤く光った。

それが合図というように、三人が一斉に黒い翼を動かしエルに飛びかかる。

王国騎士部隊長って四大天使みたいなものだよね、それが一気にあんなに襲ってくるなんて……。

でもエル、全く動かずにそれを相手にしている。

しかも人型のまま……

人型のほうが動きやすいのかな…?

「来てよ私の“お道具”ちゃんっっ!!」

EGは私を見て笑った。

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