天使と悪魔の子

エルが闘っている

動けこの馬鹿っっ

今日のために血のにじむような修行してきた

何度も吐いたし何度も骨折して心を折られかけた

けど耐えた

なのにどうして肝心な時に……体が動かない

数え切れないほどの赤い視線が粘着質にまとわりついてくる

私は魔女なんでしょ

エルを召喚した時のように

本来周りを魅了し神に準ずる力を持っているはずなんだ

でも私の中のなにかがそのつっかえを外してくれない

この身体のどこかに潜む爆発的な力を解放する術があるなら誰か教えてよ

知ってるんでしょ?

ねぇ、宙

“なーにしてんだか”

突然、頭の中に声が響いてきた。

エルの方を見るが、彼ではなさそうだ。

“僕を呼び出しなよ”

『この声は、リーフ…?でもどうやって…』

“簡単、正式に契約を交わせばいいんだ”

『エルとの契約が破棄になることはないんだよね?』

“そうだよ、そして君は最強の闇と光を手に入れられる。”

契約の方法は何故だか知っている。

契約相手が契約主を主として認めて、名前を授かるのだ。

頭の中でリーフを思い浮かべる。

元大天使で大罪人

幼い少年のようだが夜色の髪に深い蒼い瞳を持っていて妖艶でエルと同じ不老不死だ。

よし、決めた

『堕天使リーフ、お前にルーという名を授け契約を結ぶ。』

「リーフ!?」

エルは驚いてこちらを振り返った。

ごめんねエル

『“召喚魔法 ルーよ私の元へ来いっ”』

ーバリバリッ

「なにっ!?」

「ルーか、“狼”って名前をつけるなんてアメリアも皮肉なことをしてくれるな。」

ルーの召喚の波動でロンドの作りだした空間が脆く崩れていく。

まさか、波動だけで……?

「お前は魔界の森の支配者、リーフ!?」

「あらあら、彼まで手に入れちゃうなんてね。」

フェネロペやEGに少し焦りの色が見えた。

そして……

「お前に助けられるなんて屈辱的だよ。」

エルも蝋人形に奪われた力を取り戻して復活する。

「甘くなったなぁお前も、敵の罠にまんまと引っかかるなんて、本来なら防げたはずだ。」

「はぁ……返す言葉もないよ」

エルは鬱陶しそうにルーを見る。

ふたりはいがみ合ってるけど仲がいいみたいだ。

「これは死人が出ますね」

「フェネロペさん縁起の悪いこと言わないでくださいよー」

「じゃあ、俺も加勢しようか。」

ービリッ

空気が急に張りつめる。

まさか

『ラミア……!』

アスタロッサさんはどうなったの!?

負けた……?

ラミアはやはり強い、予想以上だ。

でも大丈夫だ

気後れしてちゃ勝てるものも勝てなくなる。

『っ』

ふと、私の火傷した腕にエルが口付けをした。

するとみるみる、私の腕の傷が癒えていく。

『凄い…』

「いくら傷の治りが早くても痛みがある。
じゃあ行くよアメリア」

『うん!』

一瞬でエルは獣化して私を包む。

周りを見渡すと倍以上の敵と闘っているため天使達の表情には疲れが見えてきている。

『“桜乱舞”』

ふわっと下から暖かな風が巻き起こり光を私達に纏わせる。

それは見るものを癒し、魅了する。

「あの花はなんだ……?」

「女神だ、女神が来たんだっ」

「馬鹿、あの御方はアリシア様だ!」

皆には私とエルの後ろ側に大きく、そして満開の桜の木が見えることだろう。

“桜乱舞”は、自然魔法の風と光、魅了魔法、癒魔法をかけあわせた魔法だ。

見るものを魅了し、暖かな風を受けこの桜を見たもの全ての動植物を癒すことが出来る。

但し、私の光魔法を含めることで悪魔達には効かないようになっているから便利だ。

今まで成功したことはなかったが、幸い本番に強いタイプなのか無事成功した。

「厄介な魔法ですね。しかも相当高度、ほとんど魔法の使い方を知らない少女だときいていたが知っていたのか?……それとも、ここまで一気に成長したのか………そうだとすれば危険ですね。」

なにやらブツブツとつぶやくフェネロペを尻目にラミアが笑った。

「どれだけ高等な魔法だろうが俺には及ばない。」

分析派のフェネロペとは対照的にラミアは隙あらばと大きく剣を振りかざして木をまっぷたつに斬る。

もう桜の効果を使った私には別に痛手ではないのだが、自分なりに色々悩んだ魔法をこうも簡単に破られると腹立たしいものだ。

「……ま、悩んでいても仕方ないですね。
今回はラミアを見習って、実践演習とでも行きましょうか。」

フェネロペの言葉を合図に、EGやロンドも身構えた。

「いや……でもまぁ流石に不利だし、それなりのハンデも必要だろう?」

わざとらしく口角を上げる彼に嫌な予感が過ぎる。

なに……?

タイミングよく、ラミアの後方になにやら黒い塊が見えた。

その塊の中に

私がずっと求めていた“彼ら”がいた。


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