天使と悪魔の子

いくつかの攻防戦により私達はEGの動きに翻弄された。

夕紀は既に限界に達して、エリックに身を預ける。

「あなた一人になっちゃったわね。」

少しだけ額に汗を浮かばせている彼女、それに対して肩で息をする私。

これはどう考えても負け戦

エリックが戻るまでの時間は稼がなくちゃ。

そう思って構えたその時

「ーうぐっ」

後ろから呻き声が聞こえた。

『え……?響太さん……?』

その声の主は、ミリーナさんの恋人、響太さんのものだった。

『うそ、なんで……』

痛々しい傷の数々、人間の彼には治すすべもない。

「響太ああ!!!!!!!」

そして、その後ろから、髪を乱しながら漆黒の羽根で風を切るミリーナさんが来た。

その後ろから、更に追っ手がミリーナさんに今にも斬りかかろうとしている。

うそ……

だめ、こんなの、だめ……

ミリーナさんの身体はもう限界を超えている。

EGは、私の脅し道具にするつもりなのね。

そうはさせるものか

ーザシュッ

空に花が舞った

それは純粋な赤

喉から手が出るほど美味らしい私の血

『う"っ』

「美影ちゃ……!?!?」

ミリーナさんはやっと正気に戻ったのか私を抱きとめてくれた。

「ごめんなさい私」

『大丈夫……私は“死ねない”から。』

思った以上に体が痛くて、背中が熱い。

腕を動かすことも出来なくて、私はぐったりと重力に逆らえずに腕を下ろした。

それにしても驚く程に静かだ。

周りを見渡すと、真っ赤な瞳が私を見ていた。

戦闘が、止まっていたのだ。

私の血ってそんなに匂うのかな……。

なんて呑気な思考をする私。

そして目の前に、誰よりも私の匂いに早く反応した彼がやってきた。

「美影……!」

『そ……ら』

こんな傷、皆にとったら数日で治るんだろうけど深手を負っているミリーナさんにとっても、人間に近い私にとっても致命傷だ。

私はその温もりに触れたくて、必死に手を伸ばした。

その手をそっと包んでくれる大きな手は、少し血黒く汚れている。

「……大丈夫」

宙はそっと私手の甲に口付けるとミリーナさんに目を合わせた。

「美影を安全な場所へ」

『……?宙』

「ごめん」

宙は謝ると、その綺麗な瞳を一瞬揺らした。

そして、私の首元に手を当てる。

「ちょ、宙なにしてるの!?!?」

ミリーナさんの怒鳴り声がする。

ミリーナさんに抱かれる私の首を大きな手が掴んでいる。

どうして……

その理由はすぐにわかった。
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