天使と悪魔の子
ーシュッ
目の前にラミアが現れた。
静まっているすきにやってきたのだ。
「さぁ、彼女を渡してもらおうか」
「いやだ」
「ふーん、何か考えがありそうだな。」
ラミアは私を舐める様に見たあと、再び宙を見る。
「俺を代わりに魔界へ連れていけ。」
「は?」
「俺は、魔王が最も愛した女の息子、王位継承を許された王子。いくらラミアでも、俺を殺すことは許されない。」
……うそ
宙が、王子……?
ってことはラミアも、ミリーナさんも、レリアスもみんな……
「急に城を出て行ったかと思えば、その女のところに行っていたとはな。
王位継承権とは形だけのもの、魔王と決闘し勝ったら魔王に、負けたら肉体を持たない王の器、即ち体が乗っ取られるということだ。
その決闘を申し込む、
ということでいいんだな?」
「……あぁ」
「ふっ、くくっ、魔王への決闘は掟により誰にも止められない。
だが、その女を連れていかないことにはならない。」
ーカキンッ
宙はラミアの剣を簡単に受け止めた。
いつもの彼ではないみたいに、体から殺気が漏れている。
「昔の…彼に戻ってしまう」
ミリーナさんがポツリと呟いた。
「これ以上近づけば、美影の首を折る。」
「「『っ!?』」」
予想外の言葉に、誰もが目を丸くした。
ラミアは苦虫を潰すような顔をして宙を睨む。
「……いいだろう、今日の戦いは、ここで終わりにしてやる。ミリーナの男も解放してやろう。」
ラミアは転送陣を開いて悪魔達を魔界へ返した。
宙が背を向けて離れていこうとするのを、私は引き止めた。
『いか、ないで』
「……ごめん」
『私の為に自分を犠牲にしたら、絶交だから……って約束したでしょ。』
「これが俺の“自由の契約”だから。」
振り返って彼はいつもに似た笑みで私を見る。
「これで君を守れるなら俺は命だって惜しくない。……ありがとう美影、俺に生きる意味を教えてくれて。」
私は、そんなこと…
涙で彼が歪む
私の手から、彼は離れた。
『やだ、いやだ、いかないで』
「好きだよ」
頼もしいその背中に手を伸ばす。
こんな時に告白なんて、残酷だ。
『いかないで…』
彼が去った後、私はそのまま気を失った。