天使と悪魔の子
姿を見られるのが面倒だから、とりあえず姿を変えて街を歩いた。
俺の勘は結構当たるんだ。
きっと、ここら辺に現れるだろう。
とりあえず村人に馴染むためにお店をフラフラと見て回る。
「おいちっこいの、家の手伝いか?」
いかにも柄の悪そうな人型のザヘルが暇そうに俺に話しかけてきた。
「まぁ、そんなとこ」
「ちょっと手伝ってくんねえか?」
よくみるのそのおじさんは片足をけがしているらしく、商品を店棚まで上げて欲しいとの事だった。
せっかく人型なのに、魔法の使い方を“知らない”なんて不自由だな。
ひょいっと荷物をお望みの場所に運ぶと、おじさんは商品棚にある果実を俺に投げた。
「悪いな、俺は魔法を使わない主義でね。
こんぐらいしかやれるもんはねえが、夕飯のたしくらいにゃなるだろ。」
「……ありがとう、魔法を使わない主義って?」
「魔法を使えばなんでも出来る。
戦争だって、簡単に起こせるんだ。
でも、戦闘を好まない悪魔もたくさんいる。
王国に対する、少しの抵抗ってやつよ。」
「ふぅん……」
そんなやつもいるんだね
天界はやたらと忠誠心だのなんだので堅物でつまらないヤツらばっかりだったけど、
魔界の奴らは自分の意思を持っているって感じでなかなかいいんじゃないかな。
俺は貰った果実をかじりながら、また王都の街道を進もうとした時だった。
「そこの若いのちょっとツラ貸せや。」
「見たところ貴族か…?まだガキじゃねえか。」
振り返ると見るからに上等そうなマントを被ったまだ7歳…そのくらいの年齢の少年が柄の悪そうな連中につるまれていた。
あんな格好じゃ、攫ってくださいって言ってるのとおんなじだろ…。
俺は呆れたようにその少年を見る。
そして、マントの奥で底光りする禍々しい赤と、それとは対象的に輝く青い光が見えた。
……まさか
瞬きをした次の瞬間、男達はその場から一瞬で消え去る。
騒がしい路地が、一瞬にして静まった。
僅か7歳ばかりの少年が……なんの戸惑いもなく奴らを無に帰したのだ。
あいつが、例の……
“アルベール様”か
マントのフードを取った少年の顔はとても整っていた。
誰もが目を見張る空色と真紅のオッドアイ。
その瞳には何も写っていない。
何を考えているのかわからない
いけ好かない奴だ
ーガリッ
果実を食べ終えて周りのヤツらを見ると、皆怯えていた。
「あ、あの方が噂の第二王子…?」
「そうに違いねえ、美しさは強さの証、あの顔を見れば一目瞭然だ……。」
アルベール様は手に着いた血を拭うと周りを見渡した。
その動きに、人々はびくびくと反応する。
「ごめんね…折角の盛り上がりに水を刺しちゃった。」
奴は口元だけ笑わせて威圧するように言った。
「アルベール、ね」
俺は興味が薄れてそのまま森へ引き返した。