天使と悪魔の子
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「正直意味がわからなかった。」
ルーは夜色の髪を風に靡かせて、私の目を見る。
「でも俺はその話に何故か惹かれて、乗ってしまったんだ。そして、その意味に気付いたのは最近。」
彼は岩から飛び降りると美しいその顔を私に近付ける。
「君だ」
『え……』
「奴は愛する者の存在を与えると同時に守るべき存在まで俺に押し付けた。
今までの過程、人生は全部、アルベール……いや、宙の思惑通りだったんだ。
こうして俺達が残されてしまったのも、幼い宙の計画通り……そう思ったら、正直恐ろしく感じるよ。」
今までの出来事、途中に違いがあったとしても私がここに“残される”までの過程が全部計画通り……?
『宙は最初から、こうなることがわかってたの?』
「悔しいけどね、まんまとハメられたんだ。」
そんなの…
『勝手だ』
自分勝手だ
っていうより宙はいつから私のことをここまで思ってくれていたの?
全部私の為?
『ふざけないでよ』
気付けばまた涙が溢れてきて止まらない。
「どうする?」
『…え?』
「もし、君が宙を助けに行きたいなら、俺は君が望むものにならなんにでもなろう。
どこまでもついていくよ。」
ルーのその言葉に、さらに視界が悪くなる。
「はぁ……だから、僕を差し置いてアリシアを誘惑しないでくれる?」
ふわっと柔らかい香りがして顔を上げると、この世で見るだれよりも透き通った美しさを纏うエルがいた。
「使い魔に序列はないだろ?」
「いや、この世界において力も序列も僕の方が上だ。それに、センパイってやつでしょ?」
『クスッ』
そんなやりとりが可愛くって、つい笑ってしまった。
笑う私を見てふたりも優しく笑い返してくれる。
「やっと笑った」
『ふふっ、ふたりのおかげだよ。』
「主人の心まで守るのが使い魔の役目だからね。」
「お前、いつもポーカーフェイスで気取ってるくせに結構余裕ないよな。」
そんな言葉を聞いて、エルは少し頬を染める。
「それ以上なんか言ったら地獄行きだよ?」
「お前が言うとシャレにならない…」
ふたりのおかげで、なんだか元気が出てきた。
『ありがとう』
私はお礼を言って、ふたりを正面から、晴れ晴れとした気持ちで見つめた。
『どんなに危険でも、一緒についてきてくれますか?』
「アリシアらしいね」
エルがそう言って笑った。
「んー…ちょっとずるいよなー」
ルーもまた笑う
そしてふたりは跪いて私の手の甲に左右それぞれ口付けた。
思わぬ展開に顔が熱くなる。
『なっ、え、なに!?』
「「どこまでもついていきます、我らの主」」
少女漫画的なセリフ
そして
真っ直ぐな瞳に見つめられて、私は遂に思考停止してしまった。
「ぷっ……あはは!!」
ルーが面白そうに目に涙を貯めて笑い出す。
そんな彼の様子を見て、エルは一瞬驚いたような表情を見せ、そして彼もまた笑った。
『…もう!ふたりとも、困らせないでよ。』
確信犯だな……
私は彼等の存在があっても尚押し迫る不安に、小さく呟く。
『会いたい』
どこまでも続いていて、決して掴み取る事の出来ない青空に手を伸ばした。