天使と悪魔の子
さっきの出来事により、頭がもやもやとして仕方がない。
廊下を行ったり来たりしていたそんな時、彼女が目の前に現れた。
「やぁ」
レリアスと同じ色、同じくウェーブした綺麗な髪を揺らしながら、これでもかというほど美しく笑っている彼女。
誰よりも家族思いな魔界一と呼ばれる美女
ミリーナさんだ
『ミリーナさん!もう動いて平気なんですか?』
「えぇ、もうすっかり!
本当はレリアスより頑丈なのよ私。」
そう言って笑う彼女は、前よりも格段に美人さが増したような気がする。
「ここで立ち話もあれだから、気分転換でもしましょうか?」
ミリーナさんは壁に手を当てて、あの時と同じように空間を作り出す。
何もない場所に、新しい世界を作り出す。
『それって、どうやってるんですか?』
「自分の魔法は、自分で見つけるのがいいわ。」
少し寂しそうに笑って、作り出した空間に彼女は飛び込んだ。
慌てて私も飛び込むと、そこは元いた世界にとても似ていた。
車、排気ガスの匂い、信号機、大きなビルたちに学生の溜まり場のゲームセンター
でもひとつ違うのは、人が一人もいないこと。
まるで世界に取り残されてしまったみたいだ。
『ここって……』
「貴女が住んでいたところよ。まぁ、一部私の想像で作りだしたんだけど……」
ミリーナさんは歩きながら話し出した。
「美影ちゃん…いいえ、アリシアちゃんは宙がどんな人でも、受け入れる覚悟はある?」
『彼が私の為にしたことなら、私が怒る資格はありません、どんな彼でも、受け入れます。』
「そう、アリシアちゃんは真っ直ぐね。だから宙も……いいえ、やめよう」
一呼吸置いて、彼女は語り出す。
「宙はね、私達と本当の兄弟じゃないの。」
それはなんとなく、ルーの話でわかっていた。
「私とレリアスだけが、本当の兄弟。
それでも大好きだった。」
ミリーナさんは、慌てて笑顔を作った。
「それより、これ見て!」
彼女の薬指には、草でできた指輪をはめていた。
「いまはもう無職だから無理だけど、絶対に本物を渡してみせるって……ばかだよね、結婚指輪の風習はここにはないのに。」
そうは言っているが、本当に嬉しそうに話している。
『素敵ですね』
そういえば、魔界でラミアに捕まる前、ふたりは結婚の約束をしていたんだっけ。
「アリシアちゃん」
『はい……?』
「人間の世界に、貴女にも大切な人がいるんでしょ?」
周りを見渡すと、いつか日和たちと一緒に行ったショッピングモールが見えた。
ミリーナさん…どうして知っているの?
思わず思い出の場所に走りよる。
その途中、視界の端に見えたアニマルカフェ
私とエルが初めて出会った場所。
「時々人間界に来てたんだ。
人間の暮らしている世界が、羨ましくて。
私は皇女だったから、教養とか息苦しかったんだ。」
ふっと景色が変わって、細い路地に私達はいた。
雪が降り出して、そこに人が倒れていた。
雪に埋もれる見た事のある顔。