天使と悪魔の子
「おわああ!」
ミリーナさんと私が空間から元いた翠の宮殿の廊下に出ると、ちょうどシェリーが歩いているところだった。
驚いて尻もちをついている彼女だが、戦闘となれば誰よりも素早く怪力を見せつける。
『あれ、シェリー……!その方がいいわ!!』
「え?あ、見ないでくださいっ」
恥ずかしそうに彼女は顔を隠した。
以前まで目の下まで伸びていた前髪が、バッサリと所謂オン眉のところまで切られている。
前まで隠れていた薄桃色の瞳が顕になり、元の愛らしい顔が見えるようになっていた。
「あらあら、本当に可愛いっ」
「や、やめてくださいよぉ」
少し舌っ足らずなところが懐かしい。
前に見た時とは違い、もう傷は癒えているようだ。
「わだくしは嫌だったのに……看てくれていた天使様が勝手に……」
重苦しく溜息をつく彼女
でも、以前のようにそこまで嫌がっているようには見えない。
きっと、彼女も彼女なりに進歩したんだろう。
もう使い道のなくなったレリアスに貰ったピンで、横の短い髪をとめている。
『シェリー、ありがとう……本当に。皆が味わった拷問の恐ろしさはわからない……でもお礼をいわせて。』
「いいんですよ、ご主人様に比べたら、こんなのへっちゃらです!」
愛らしく笑う彼女をぎゅっと抱きしめた。
「わわっ、今日の美影様はなんだか忙しいですね。あ、アリシア様でしたっけ。」
『ううん、美影って呼んで欲しい。ミリーナさんも、アリシアって呼ばなくて大丈夫です。』
美影って名前は、宙が見つけてくれたから。
みんなの前では
神の唯一の血族“アリシア”でも、
親しい人の前では、
“美影”のままでいたい。
『だめ……かな』
「いいえ、美影ちゃん!
正直アリシアちゃんって呼ぶのは違和感があったから……こっちの方がいいわ。
それに、距離が縮まった感じがするし。」
『ありがとうございます』
そのあと三人で通路で談笑していると、ルリがやってくる。
「お久しぶりです」
『久しぶり……ルリもありがとう』
「いいえ、これが私の使命ですから。」
『……ルリらしいな。ルリも、私のことを美影って呼んでね。』
そう言うと彼女は不思議そうに首を傾けた。
そして私の隣のミリーナさんに一礼をする。
「よくわかりませんが、わかりました。」
彼女らしからぬ曖昧な返事に、思わず三人顔を合わせて笑った。
嬉しい
こうしてまたシェリー達と再会して話せることが……なによりも。
『じゃあ私、夕紀のところへ行ってくる。』
「はい!」
「じゃあね」
「では、また。」
手を振ってその場を駆け出す。
誰より一番に、会いたかった
背を合わせて戦った彼の元へ……