天使と悪魔の子
ーガラガラ
保健室を出てしばらく進み、角を曲がる。
『っ』
この男は驚かせるのが趣味なのだろうか。
私のカバンに手を置いて、壁にもたれ座り込んでいた。
私を見上げる目は、いつも通りの空色で、少し怒っているように見える。
ゆっくり、その目から視線をずらした。
『……宙が、助けてくれたんだよね。』
あの温もりは、宙だよね。
問いかけには答えず、彼は痛いくらいの視線を浴びせてくる。
「…話さないんじゃなかったの?」
あ、そう言えば、そんなこと言っちゃったんだ。
『……宙が、話してくれないのが悪い。』
どうしてこんなに、素直になれないのか。
ありがとうって素直に言えばいいのに。
気まずくて痛むお腹を摩った。
ードサッ
その手をいきなり彼の冷たい手が掴んだ。
思わぬ出来事に体制が崩れ彼を押し倒すように倒れてしまった。
『っ、』
恥ずかしくなって離れようとすると、
それを妨げるように大きな手が背中に回される。
「心配、した。」
ぎゅぅっと彼に抱き寄せられる。
私は心臓がどうにかなりそうで、必死に冷静さを繕った。
「なんで、あんな無茶したんだよ。」
『別に、殴られても傷つかないから。
確かに痛いけど、他には何も無い。
なんてことない。』
そう、私にとってなんでもない。
私の心に空いた穴には比べられないくらい、この出来事は小さい。
だから、なんで貴方達がそんな表情をするのかわからない。
東洞くんも、一年生の子も、どうして?
「もっと、自分の身を大切にしろよっっ」
心臓を鷲掴みされたようだった。