天使と悪魔の子
『なんで、みんな悲しそうな顔をするの。』
「え…?」
『東洞くんも、あの一年生の子も、
悲しそうに眉を寄せるんだ。
自分のことみたいに悲しそうに…。』
あの時のことを思い出すと、
胸がぎゅっとなる、だけどその後にじんわりと温かいものがこみ上げてきた。
そして、
それが形になって宙の頬へ落ちる。
あれ、なんで私泣いてるのかな…。
「後悔した?
あの女の子を救ったこと。」
後悔…
『後悔なんかしてないっ』
はっきりと言った私に宙は笑った。
「じゃあ教えてあげる。
その感情の名前は、“喜び”だよ。」
喜び…
嬉しい…?
「それは単なる喜びじゃなくて、
恐怖から生まれた。
全く反対の性質を持つ感情から生まれたんだ。あの先輩から女の子を救うのは恐ろしかった、けど、それによって得られた喜びがある。
その結晶がこれだよ。」
宙は優しく目に溜まった涙を掬った。
「クスッ…あったかいね。」
そういうと私の頭をぽんと撫でる。
それが妙に気持ちよくて、目からまたポロリと落ちた。
それと同時に宙はぎゅっと背中に手を回して抱きしめてくる。
『ふっ…うぅ……』
ポロポロと落ちるそれはもう堰を切ったように流れ出し止まることを知らない。
そんな赤ん坊のような私を彼は絶えず背を撫でてくれた。