天使と悪魔の子
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やっと辿り着いた。
神界に少し立ち寄った後、俺達は魔王の住む城へ向かう。
幸いレリアスやミリーナ、エリーゼやエリックまで着いてきてくれている。
向かってくる敵を薙ぎ倒していく中、日和や架は目を丸くしてこちらを見ていた。
「やっぱり、宙達は人間じゃないんだな。」
「信じられねぇ?」
夕紀の問いかけに二人は笑った。
「夢なら覚めないで欲しいよ」
「せっかく本当に隠し事なしの親友になれたんだからさ。」
全員見ている先はひとつだった。
もう独りじゃない。
ーガコンッ
大きな門を蹴破って正面から突破するが、奇妙なことに誰も見当たらない。
可笑しい
騎士が“ひとりも”いないなんて……。
ーカツカツ
長い階段の上から高いヒールの音が響いた。
さらさらのストロベリーブロンドの髪、黄金に輝く瞳……大好きな彼女の姿をしてこちらを冷たい瞳で見下ろしている。
「美影!!!私だよ、木之本日和!!」
「駄目だよ、彼女じゃない。」
日和と架を俺と夕紀の後ろに隠す。
このふたりだけは、何があっても守るんだ。
「ふーん、馬鹿息子に人間の子供ふたり…ん?お前は……」
「見覚えねぇか?」
夕紀と魔王が目を合わせ互いに笑った。
「お前、生きていたのか?
“第二王子”…ナルタシス!」
夕紀の髪が腰の辺りまでまで伸び、アメジストの瞳が誰よりも鮮やかな血色に染まる。
これが本当の姿
魔王の血を多く受け継いでいる者に現れる容姿であった。
そう、夕紀は昔俺が殺したとされていた第二王子だった。
ナルタシスは、俺の理解者であり魔王候補として有力者だった悪魔だ。
こいつは幼い俺に、駒として自らを捧げ共に魔界から逃れてきた。
異母兄弟であり、親友でもある。
「え、え?第二王子!?」
「兄弟なのか!?」
頷くと、もう驚き疲れたのかふたりは呆れた顔をして頭を抱えている。
「いや、ちょっと待ってよ……ナルタシスが生きていたの?」
ミリーナは瞳を潤ませて夕紀を見つめる。
「久しぶり、義姉さん。」
「アルベールもナルタシスも酷いじゃない…勝手にいなくなるなんて。」
嬉しそうに頬を緩ませている彼女に満更とも言えない表情のレリアス。
レリアスはナルタシスによく懐いてたっけなぁ。だから余計に俺の事を恨んでいた。
「はぁ…忌々しい、」
ーズンッ
一気に重力がのしかかって来た。肺が今にも潰れそうだ。
架と日和を庇い二人を守るシールドを作る。
鞘から剣を抜き全員で飛びかかる。
しかしそれは何かに弾き返されて全員壁にぶち当たった。
「てんめぇ…」
エリーゼが頭に血が登ったのか壁を殴った。
まさかの出来事に一同あんぐりと口を開く。
殴った衝動で城が揺れていた。
しかも、なんだか妙な音がしている。
「く、崩れる!!」
ミリーナの転送術で全員外に退避した後、心の中で誰もが思っただろう。
エリーゼを怒らせたら駄目だ と…。
「み、美影…!!!!」
日和が悲鳴にも近い声を上げて瓦礫の山を見ている。
崩れたのは城のエントランスの部分だけだった。
奥の方から甘い香りが漂ってくる。
「はぁ、容赦ないな小娘」
頭から血を流しているが、お構い無しにこちらに攻撃を仕掛けてきた。
誰の身体だと思ってんだよ…!!
向かってくる剣を受け止めると脇を蹴られた。
それに夕紀が介入しまた、蹴飛ばされる。
強い…
隙が一切ない、体制を立て直す余地を与えない攻撃のすばやさ。
でも、人間の血が入っている美影は体術があまり得意ではないはずだ。
怪我の治りも普通の悪魔とかよりも遅いし…ぼろぼろになっている手と足を見て顔をゆがめる。
「……美影」
何度向かっても倒された。
必死で呼びかける架や日和の声も虚しく響くだけだった。
けどこんなの、わかりきってたことだ。
負け戦と知りながら血を流す者達
あの無敵のエリーゼさえ手を挙げている状態だ。しかも、美影の身体をあまり傷つけられないから動きが鈍くなってしまう。
俺はヴァレール神から受けとっていた“騎士の竪琴”を取り出した。
これは以前、美影が天界で出会った夫婦から貰った笛と対のものらしい。
なんとなく竪琴を奏でると、魔王は、ぎょっとしたようにこちらを振り返る。
「お前!!!それは!?」
「アリシア…身勝手だってわかってるんだ。封印しておいてこんなこと言ってごめん。出てきてよ、アリシア……封印を解こうにも、美影の意識がなければ出来ないじゃないか。」
心に届くように訴えかける。
頭を抱えて地面に這い回る魔王。
この琴は昔、魔王を倒した騎士が使った魔王専用の対魔道具らしい。
苦しいのだろう
目を血走らせこちらへ走ってきた。
すっと竪琴を下に落として向かってくる魔王を受け止める。
腹に何かが刺さって痛くて痛くて今にも叫んで逃げ出したい。
周りの声が五月蝿くて頭に響く。
「アリシア
もう一度、君に会いたい。」
これは、罰なのかもしれない。
「何をごちゃごちゃと言っている……!!」
魔王が俺を押し退けようとするが離すもんか。
意識が飛びそうになったその時
眩い光が目に飛び込んできた。
悪魔が苦手な光だ。
そしてその時少し、何かが割れる音が聞こえた気がした。