天使と悪魔の子
手が痛くて力が緩み一気に引きずり込まれる。
『あっ!!!!』
綺麗に輝く月に手を伸ばした。
宙…助けて
ーグイッ
「しっかりしろ」
『っ…ぁ……夕紀くん?』
力強い腕に引かれて彼の胸へ収まった。
「もう大丈夫だ」
ぽんぽんと背中をさすられると自然と安心する。
「よくも邪魔をしてくれたな」
水溜りの中から姿を現す大量のザヘル達
『夕紀くんは危ないから逃げて』
「は?」
『こんなの勝てっこない』
私達、人間には何も出来ないんだ。
弱いから何も出来ない。
「人間なんてここには一人もいねぇよ」
『…え?』
なんて言われたのかわからなかった。
心の声が読まれた?
夕紀くんは人間じゃないの?
そもそも私も、人間じゃない?
「ま、待て、あいつは…貴方様は…」
ザヘルの紫色の肌が更に青くなっていくのがわかった。
夕紀くんがどうかしたの…?
私がどんな表情をしていたのかはわからないが夕紀くんは私の目を隠した。
「消えろ」
何が起こっているのか
彼の手が目から退けられた頃にはザヘル達はいなかった。
『…なに?』
夕紀くんの目が血色に染まっている。
これは、宙の片目とよく似ていた。
「俺は天界から来た昇悪魔。」
『夕紀くんが、悪魔…
昇悪魔って言うのは昇華された悪魔ってこと?』
「驚かないんだな」
今の状況ならなんだって信じられる気がした。
『……』
どうしよう、宙とはどんな関係なのだろうかとききたい。
けど、聞いていいのか…
「あいつ…宙とは幼い頃からよく遊んだ
俺とあいつは似ても似つかない種だけど混ざり者という一つの合点で絆ができた。まぁ、親友っていうやつなのかもな。」
優しい顔をして言う夕紀くんに安心する。
しかし、ふいに真剣な表情で私を見た。
「あいつにこれ以上関わるな。」
『え…』
「このままだとお前は宙に…殺される。」
冬の冷たい空気が全身を凍らせた。
いや、現実には彼の言葉に体が凍ったように動けなかった。
宙が…私を?
『え、な、何言ってるの?宙は、宙はそんなことしないよ。』
あんな綺麗な瞳を持つ彼が、
私を…殺す?
「忠告はした。命が惜しいなら、今すぐこの街から去れ。」
ーバサッ
大きく風を切る音が響く。
私は黒い翼を持つ彼をとても長い間姿が見えなくなってもなお見つめていた。