天使と悪魔の子
ーミャ
宙に導かれるまま五人でお店に入ると下から可愛らしい声がした。
『ぁ…』
猫?
屈んで撫でてやると気持ちよさそうに寝転がる。
「ふふっ、不思議ねぇ、その子滅多に懐かないのに…」
店員さんは面白そうに笑うと子猫抱き上げる。
『宙、ここって…』
「アニマルカフェって言うんだって。
俺動物と触れ合ったことないから来てみたかったんだ。」
「あ、見て見て!この子可愛いー!」
振り返ると、日和は大きな白い犬をもふもふとしながらマットな上に寝転がっていた。
「どっちが犬なんだか…」
「なんか言った?」
「なんでもないです。」
暖かいこの空間に笑顔が零れる。
宙の方を見ると夕紀くんと一緒にふくろうを見ていた。
「もう潮時なのかもね…」
ふと聞こえた虚しい言葉に目を瞬かせる。
『やめるんですか?』
自分でもデリカシーがなかったと反省する。
人と交流がないことは、とても世間知らずになってしまうことに繋がるんだ。
「えぇ…母から続くこのアニマルカフェも、年を重ねるごとに若者は近くに出来たショッピングモールや都市部に集中していって、もう最近では殆ど人が来なくなってしまったの…。昔みたいに、小さな子供達も来てくれなくなったわ…。」
『わ、私、ここに来れて凄く、よかったです。この暖かくて穏やかな雰囲気は街ではなかなか味わえないものですし、それにっ』
「ふふっ、そう言ってくれて嬉しいわ。」
店員さんと言うのは相応しくない。
店長さん、彼女はこれでもかというほどクシャッとした笑顔を見せた。
こんな素敵な笑顔、そうそう見られたもんじゃない。
私には自然に笑うことさえ、難しい。
「よかったらこの子、貰っていただけないかしら…。」
『え?』
「悲しいけど、私じゃ自分の家でこんなに沢山の動物を養っていくだけのお金はもうないわ。…せめて、子供の間に新しい主人を探してあげるべきだからね。もちろん、必要な用具は出来るだけサポートするわ。
やっぱり、迷惑かしら…」
生活は余裕がある。
でも、私に子猫を育てられるのかわからない。
親を知らない私に育てられるのかな…。
「大丈夫」
隣から聞こえる安心感のある重低音。
『宙…でも……』
「美影がいれば、この子は立派な猫になれるよ。」
ーミャア
何故かわからない
彼の言葉は安心感がある。
まるで魔法のように心に染み渡る。
「どうかしら…」
『決して疎かにするつもりはありません。
大切にさせていただきます。私で良ければ、引き取らせてください。』
座ったまま頭を深く下げた。
ーミィ
ゴロゴロと喉を鳴らして擦り寄ってきてくれる。
「答えはこの子に聞いた方が早いわね。みてよこのこ、すごく嬉しそうにしてるわ。」
『っ…』
誰かに必要とされている。
それは堪らなく嬉しいことなんだ。
「あれ、美影泣いてる?」
日和がぎゅっと後ろから抱きついてきてくれる。
「この子をよろしくね。」
何度も何度も首を縦に振った。
あぁ、私生きていていいんだ。
誰かに必要とされてるんだ。
今まで何も意識していなかった人間の承認欲求。
いや、誰かに必要とされていないと思うのが怖くて逃げていただけだった。
『ありがとう』
私は今までにないほど穏やかな気持ちで笑顔を見せた。