天使と悪魔の子
宙は飛んでくる教室のものを腕で防いだ。
彼の頬にチョークが掠れて傷がつく。
これは、私がやっているの?
お腹に集中する熱
ふっと窓に映る自分を見た。
『っ!』
前と同じだ。
金色の目
教室に浮かぶ机
私は…魔女
ーキンッ
また鈍い頭痛が襲った。
同時に浮かんでいた教室のものも地面に落ちる。
「美影」
エルが言っていたように私の記憶にはきっと封印がかかっているのかもしれない。
自分の真相にたどり着こうとすると邪魔が入る。
でもひとつ大きな事が分かった。
私は魔女なんだ。
でも、魔女って一体…
「大丈夫?」
『ごめん…』
宙を傷付けた。
結局私は醜いんだ。
「お願いだから…美影だけは、自分の生まれた世界を嫌いにならないで。」
『…ぇ』
宙は、確かそうだった。
親に捨てられたって言ってたね。
でもね、私は…
『私はこの世界を愛することは出来ない。』
誰になんと言われようと、
この事実は変えられない。
「そっか…」
『あの…聞きたいことがある。』
「ん?」
『宙は……宙は私を』
ーガラガラッ
勢いよく扉が開く音で振り返った。
『夕紀、くん…』
「…派手にやったな」
今のは、偶然?
それとも、わざと私の言葉を遮ったの?
『…』
「…」
夕紀くんと目が合うと数秒の睨み合いが続いた。
やっぱり、彼はわざと遮ったんだ。
でもそれは何故…
「立てる?」
宙が手を差し伸べてくれるが私は首を振った。
床に手をついて立ち上がろうとすると、何かが刺さったような鋭い痛みが来る。
『っ…』
ガラスの破片…窓を見ると、それは無残にも粉々に砕かれていた。
『私って…魔女なんだね。』
顔を上げて宙を見ると、両目が真っ赤に染まっている。
『ぁ…』
これは…悪魔の目だ。
夕紀くんの目も同様に赤い。
悪魔は確か血を好むんだ。
「…っ」
夕紀くんは勢いよく制服で鼻を覆う。
私の香りは彼等には強いのか…?
「ごめん…」
宙は私の手を取って傷口を舐める。
微かに体が震えた。
宙じゃないみたいで、怖い。
「……大丈夫、傷を治しただけだよ。」
舐められたところを見てみると確かに傷はなくなっている。
『凄い…』
「凄いのは美影だよ。」
『え?』
「少し血を舐めただけなのに、骨の髄まで力が漲ってくる。」
『それは私が…魔女だから?』
魔女の血は、美味しい?
「…もう隠せないみたいだね。」
宙は夕紀くんと目を合わせ頷いた。
「これから時間ある?」
『もちろん…』
真実を知るのは怖い
けど好奇心には勝ることはない。
「まず教室を直さないといけないから…目を瞑ってて欲しいな。」
私は言われたとおりに目を閉じ合図を待つ。
下からふわりと風が起こって全身が暖かい何かに包まれたような感覚が起こった。
それが落ち着くと、宙からの許しを得て目を開ける。
『え…』
ボロボロだったはず教室はどこにもなくさっきまでのことが嘘のように思える。
これも、宙の力なの…?
「さぁ、行こう」
『どこへ?』
手を引かれて立ち上がり夕紀くんと目を合わせる。
「……宙、今日はこいつも混乱してるみてぇだしまた明日にでも話をしよう。」
「そうだね…今日は疲れたよね。
明日の終業式の後、美影が知りたいことを教えてあげる。」
知ったらどうなるのだろう。
知ったら、何か変わるのかもしれない。
徐々に閉じていく瞼、ふわっと宙の匂いがして温かさに包まれる。
『宙…わたしね』
聞きたいことがあるんだ。
私は宙と、どこかで…