天使と悪魔の子
終業式の朝
エルの綺麗な毛並みに沿って撫でてやると気持ちよさそうに喉を鳴らした。
『おはようエル。』
私は昨日の“不思議な夢”を思い出して語りかける。
『昨日、変な夢を見た。妙にリアルで…エルにそっくりな綺麗な純白の髪の子が“壊してあげる”って、それで私…』
私…
どうなったんだっけ?
「…今の、本当?」
エルはいつの間に目覚めていたのか綺麗な瞳を揺らしていた。
もしかしたら、昨日の美少年のことを知っているのかもしれない。
『本当、じゃあ行ってくるね。』
「またそいつのことを見たら、耳を貸しちゃダメだ。心ごと、飲み込まれちゃうから…。」
心ごと…?
兎に角、エルからすれば超危険人物ということだ。
エルはあちらの世界でも高等な生き物だと言っていた。
じゃああの美少年は…もっと危険?
ーコンコンコン
「…夕紀っていう男だ。
気に食わないけど、外ではあいつらといる方が安全だよ。」
エルは彼等のことが気に入らないらしい。
『ありがとう、今日は少し遅くなるかも。』
ローファーの踵を鳴らして外へ出ると夕紀くんがアパートの入口に立っていた。
目が合うと少し気まずいが急ぎ足で階段を降りる。
『お、おはよ』
「…さっき誰と話してた?」
『気になるなら部屋に上がる?エルしかいないけど…』
「……いい」
腑に落ちないのか夕紀くんは鬱陶しそうに髪をかきあげた。
『それより、私に何か用があったんでしょ。』
夕紀くんは少し周りを警戒して私を路地へと連れ込んだ。
宙にこれ以上近づくなと忠告をした。
私が彼に殺されると…
「死にたくないなら、俺についてこい。」
『どうして?宙とは親友なんじゃないの?』
「…そう、だからあいつが傷つくのはみたくないんだ。」
わからない
宙が私を殺すなんて、信じられない。
だけど…
『たとえ宙に殺されるとしても、
私はどこにも逃げる気はないよ。』
「っ…なんで、怖くないのかよ?」
『怖いよ、でも…生きたいっておもったのは宙がいたから。裏切られたとしても、別にいいんだ。』
これは嘘なんかじゃない。
彼に殺されるって聞いて当然驚いたりしたけど、でもよく考えてみたら、
彼と出会わなければそもそも生きたいとも思わなかったんだ。
『宙がくれた今だから。』
これが私の“想い”。
「……あいつがあんなにお前のことを思ってる理由、なんとなくわかったよ。」
夕紀くんは路地から抜けると私の歩幅に合わせて歩いてくれた。
口調は厳しかったりするけど、夕紀くんは宙とよく似ているのかもしれない。
そう思うと少し嬉しい。
あれ、なんで嬉しいんだろう?
嬉しいって、なんだっけ…
でも少し、あたたかい感じがする。