天使と悪魔の子
『うあああああッッ』
外に出ると雨だった。
冬の雨は頬を濡らして冷たく身体から体温を奪っていく。
コートも羽織っていないなんて自殺行為だ。
それでも戻る気にはならなかった。
いつからこんなに弱くなったのだろうか。
生きたいって願わなければ、傷付くこともなかったはずなのに…。
心の闇に比例するように雨はどんどん酷くなっていく。
ーバサッ
傘を広げた音じゃない、翼を広げるような音が聴こえた。
顔を上げると漆黒の翼が私を庇うように広げられている。
『夕紀…くん』
「あんたが風邪ひいたら、パーティー、楽しみにしてる奴らが悲しむだろ。」
『なんで、悲しむの?』
「なんでって……お前、その気持ち知ってんだろ。」
私も知ってる?
「この前、あの大沢ってやつから一年生の女子助けてたんだろ。
あの時どうして助けようと思ったんだ?」
あの時…
私はあの子の悲鳴を聞いて、胸が張り裂けそうになった。
過去の自分と重ねて…
でもそれだけじゃない
あの悲鳴がすごく苦しかった。
「それはさ、“哀しい”って感じたからじゃねーの。」
自分の中で悲しむんじゃなくて、相手に対してもあてはまる…そういうものなんだ。
いつの間にか、感情が増えていく。
『じゃあ、パーティー出なきゃね。』
夕紀くんのおかげで少し楽になれた。
気を使ってくれているのか、宙のことは全く触れないでくれている。
『ありがとう…』
「…変なやつ」
照れ隠しなのか本心なのか夕紀くんは晴れてきた空を見上げた。
『……私、やっぱり怖いのかも。』
殺さないって言って欲しかったな。
あの時、少しでも期待してた。
『宙は殺すの?なんて、卑怯なこと聞いちゃった。』
「…俺はお前を叱る資格なんてないから。
したいようにしたらいい。
もし逃げたいなら連れて行ってやるし、あいつと向き合いたいなら…力の限り守る。」
『そんなことしたら
夕紀くんは結局宙と…!!』
「そういう運命ってやつ、宙にもそう頼まれたから。」
宙に…頼まれた?
「もしもの時、美影を俺から遠ざけてほしいって、ひとりでかっこつけやがって。」
初めから宙は私を殺す気はなかったの?
殺すのはただの脅迫で…自分から遠ざけるために?
『今の話、本当?』
「嘘なんかつかねぇよ」
『そ…か』
宙は助けようとしてくれてたのに…酷いことを言ってしまった。
『夕紀くん、ありがとう。』
立ち上がって屋上から飛び出した。
「お前を守るって言ったのは、俺の我儘だ。」
夕紀くんがそんなことを言っているなんて知らないまま…。