天使と悪魔の子
ーテレレレレレンテレレレレレン
バイトを終えて外に出るとますます寒くなっている。
ここらは都会だから雪が降らない。
でも私が育った町では雪が降って、白に覆われる。
あれを見ているととても心が落ち着いた。
「あ、君」
『はい』
「手袋落としたよ。」
『ぁ、どうも。』
いかにも人が良さそうな中年くらいのスマートな男性が私の手袋を手に持っていた。
こんな人、ここのコンビニに通ってたっけ。
「この町に、僕の…そうだね、娘がいるんだ。」
『そう、なんですか…。』
彼は娘と別居しているのか。
なんだかこうした話も結局他人事で、反応が薄くなる。
「ちょうど君くらいの年でね。
…いままでもなにも、してやれなかった。
あわせる顔もないんだがここまでふらふら来てしまったよ。」
『…』
「すまない、こんな話をしてしまって。こんなおじさんに付き合ってくれてありがとう。じゃあ、気をつけて帰ってね。」
この人の娘なら
私は彼に対してどう思うのだろう。
でも少なくとも今の立場からすれば、彼のような父親がいることは、とても羨ましい。
『…あの、』
咄嗟だった。
『また来てくださいね。』
ここじゃなくて、この町に。
娘さんがいるこの町に…。
「あぁ」
あの男性はにこやかに去っていった。
その日の夕刻には今日のバイトのあと何をしたのかはっきりと覚えていない。
でもなにか奇跡的な出会いが、あったかのように思えた。