天使と悪魔の子

「お前、本当に母親そっくりになったな。」

やめて

「それで、こいつ誰だ?」

やめてよ

「好き勝手やってんじゃねーかよ。」

父が宙の肩に触れようとしたが私は思い切りそれを払う。

『彼に触らないで!!!』

あ…

久しぶりに見た父は前と全く変わっていない。

容姿はハッキリいえば美麗だ、だがそれは仮の姿で中身は誰より醜いケダモノ。

「なんだ?俺に反抗するのか?」

『っ…』

私はどうしようもなくなって走り出した。

「美影!?」

宙の声も無視して無我夢中に……。

ーガチャガチャガチャ ガンッ

鍵を壊す勢いで家に飛び込んだ。

『はぁっ、はぁっ、、』

ーミャア

帰りを待っていたのか玄関に座っているエルを抱きしめた。

「美影?」

『エル、どうしよう…あいつが…』

寒さのせいじゃない、怖い。

「もうすぐ、来るから。」

ーガチャガチャ

「おい!ここにいんのはわかってんだよ。」

『ぁ…あ』

いまにもこのボロアパートの扉は蹴破られそうだ。

私はエルを抱いて部屋の奥へと逃げる。

もっとも、こんな狭い家にはお風呂場とリビングとトイレしかないのだが…。

『来ないで』

「美影、落ち着いて。」

エルが猫の姿のまま私を見つめている。

なんだかその瞳は落ち着いて、前の教室のようになるのを防いだ。

どうにか逃げなきゃならない。

でもどうやって…

ーコンコンコン

『…え?』

外からノックが聞こえてきた。

窓の方?

『…っ、宙!!』

どうして来てくれたの?

窓を勢いよく開いて彼に飛びついた。

ベランダの手摺りに片足をかけているのに抱きつくなんて危険だが、彼なら受け止めてくれる。

ーミィ

「おい!誰かいんのか?あ?」

様子をおかしく思ったのか父が叫んだ。

酷い私の怯えように彼は腰に手を回す。

「逃げよう」

『っ、うん!』

私がエルを胸に抱くと宙は飛んだ。

一気に夜空に舞い上がり白と黒の翼が美しく風を切る。

「さっきの人って、美影のお父さんだよな。」

『…言わないで。』

出来れば父となんか呼びたくない。

あんな人、知らないって言えたらいいのに。

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