天使と悪魔の子
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ーカタン
私はとりあえず宙の家へお邪魔することになった。
御丁寧にお風呂まで借りさせてもらった。
その際私達の間には緊張した雰囲気が流れていた。
「ココア、お風呂上がりに飲むと体が温まるよね。」
『……ありがとう』
液体が喉を通ると芯が温まって、甘い香りが口いっぱいに広がった。
ほうっと息をつくと私は口を開く。
『もし今からする話を聞いて、嫌になったらいつでも追い返していいよ。』
「そんなことするわけない。」
『…そ』
私は怖くて、ココアに映る自分の顔を見ていた。
『私は父子家庭で物事ついたときには母はいなかった。そして言葉を話すようになると父はストレス発散に面白がって殴ったりしてきたの。』
借りたパジャマを背中まで脱いだ。
『見える?』
「っ…!」
今でも残ったその痕跡。
背中に残る大きな火傷の跡。
幼い頃襲った熱湯の雨。
『歳を重ねる事にそれはだんだんエスカレートしていった。そして私の中の感情も死んでいったの。変に期待を抱いて傷付くのは、もうたくさんだった。』
人として、死んでいくようで…恐ろしかった。
でも最後にはそれも感じなくなった。
『支えだった祖母がなくなった冬、中学三年生の冬の日、私は…。』
私は
急な吐き気がして口を抑えた。
「無理しなくていい。」
『……優しくしないで。』
こんな私に、触っちゃダメ。
『父に初めてを奪われたの。』
「……」
『軽蔑したでしょ、したよね、したって言ってよ!!!!』
手に持っていたコップは木っ端微塵に割れた。
彼の目を見ることが出来ない。
エルも遠目に見ているだけ。
「……やめて」
彼が私の手首を掴んだ。
気付くと手はガラスの破片のせいで傷付いていた。
『なんで、もっと軽蔑でも突き放すでもしてくれたら、自分を責められるのに。』
「また死のうなんて、考えた?」
『そうよ、でもね、でも…私』
本当は何度も何度も死のうとしたの。
『この身体は許してくれなかった。』
成長するにつれて私の身体は妙な力のせいで傷つきにくくなっていた。
『異世界の住人のあなたになら、私を殺せるんじゃないか、なんて思ったりしたの。』
そんな死にたがりの私を何度も何度も変えようとしてくれたのは宙なのに…。
「俺そこまでいいやつじゃないから。」
『え…?』
ソファーにそのまま押し倒されて意味がわからなくなった。
『そ、宙退いてよ。』
「やだ」
目が赤い
血の出ている手を宙が舐めた。
『っ!』
「美影が死にたいって思う度に、壊したくなる。全部嫌なことも忘れさせて俺なら大切にしていくのに……でもそれはだめなんだ。
美影が自分で立って歩いていかなきゃ意味が無いんだよ。」
声を荒らげて話す彼はとても辛そうだった。
ずっと彼に甘えちゃって…やっぱり私悪い女だ。
『ごめんね…』
「許さない」
宙が傷を舐めるとそこは一瞬で治る。
しかしそれはなんとも言えない甘い痛みが広がる。
『ぁっ…』
視線が交わって逸らせなかった。
“悪魔の瞳に囚われたらもう逃れられやしないよ”
誰かの声が頭に響く
とても優しくて安心する女性の声。
これは記憶の断片?
『宙…っ』
私の声に正気に戻ったのか宙はゆっくり退いた。
「ごめん、俺変な事……。」
『ううん、こんな私を受け入れてくれてありがとう。』
いままで過去の話なんてしたことがなかったする相手もいなかったが……。
こんな穢れた私を大切に思ってくれてありがとう。
「今日はもう寝よう、今だけ全部忘れてこのまま…」
『うん…』
最悪の再会の冬の日
初めて温かさを知った夜だった。