天使と悪魔の子

ーミィ

『んっ』

エルが身体を擦り寄せ私を起こした。

昨日から我慢させてばかりだ。

『おはようエル』

気付けばフカフカのベッドの上で寝ている。

綺麗に整頓された部屋、昨日とは違う、きっと宙が運んでくれたのだろう。

「しばらく元の姿に戻れそうにないね。」

エルは疲れたように顔を可愛らしい手で撫でた。

『…けじめ、つけなきゃ。』

「今あの男は美影を探してるみたい。
機嫌が悪いから行かない方がいいよ。」

『あの人はいつだって機嫌が悪いよ。
いや、機嫌がいいときはもっと怖かった。』

ーカチャ

ドアが開く音がした。

私は何も無かったようなふりをして空を見上げる。

「おはよう、朝ごはん作ってみたんだ。
よかったら食べてよ。」

さっきの声聞こえてなかった…?

エルを見ると何食わぬ顔で毛並みを整えている。

エルの仕業だな。

『ありがとう、どうやって作ったの?』

「ん?適当に…」

彼はものを食べないはずだ。

当然作ったこともないはず……。

恐る恐るベッドから降りてリビングへ向かった。

『…いい匂いがする。』

「…なんだと思ってたの。」

『秘密』

見た目も普通だ。

寧ろ美味しそうに見える。

『……いただきます。』

まずはお味噌汁に手を伸ばす。

「…どう?」

ーコクッ

『お…いしい』

あったかい、体がほかほかする。

今頃だが起きても寒くないなんて何時ぶりだろう。

暖房をいれてくれてたみたいだ。

「よかった」

ご飯を口に運んで野菜物にも手を伸ばす。

とても素人の味とは思えない。

そう思って口に入れた瞬間血の気が引いた。

『ぅ…』

見た目はただの和え物なのに、何この味は。

「ごめん、栄養剤混ぜてみたんだけどダメだったかな?」

『え、栄養剤……』

宙は悪くないんだ。

私の為を思ってくれてる。

ーゴクッ

『お、美味しいよ。』

宙は無邪気に笑って珈琲を口にした。

ージョリジョリ

ん?

ージョリジョリジョリ

この音って、まさか……

宙がスプーンを回す度になる音に目を丸くする。

『砂糖、入れすぎじゃない?』

飽和されてない分の砂糖がかなりあるみたいだ。

「そうかな?」

『…体に悪いよ』

「じゃあやめる。」

あからさまに落ち込んだ宙を見ていると許したくなるがだめだ。

『…洗濯してくれたんだ。』

「ちょっとズルしたけどね。」

『ズルって?』

「世にいう魔法みたいなやつだよ。」

魔法か……そういえば、私は魔女なんだっけ?

まだ教えて貰ってないや。

でもその前に私にはやるべき事がある。

『少し出掛けてくるね。』

「…美影のお父さんのところ?」

『さぁ』

折角洗ってくれたのだけど、これを着ないわけにはいかない。

そして私には誰よりも先に、会わなくちゃ行けない人がいる。

『ご馳走様でした。』

宙から借りた服を脱いで着替えると彼は恥ずかしそうに目を背けた。

もう少し場所を考えればよかったかもしれない。

一人暮らしに慣れてしまったせいでそういうことには疎くなってしまったようだ。

『じゃ、行ってくる。』

「何かあったら俺が迎えに行く。」

『うん、ありがとう。』

宙からまた貰ってしまった。

現実と向き合う勇気を、

未来を切り開く力を。

玄関を開くとエルも駆けてくる。

『またね』

次に会った時はいい報告ができますように、そう願っていた。


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