天使と悪魔の子
いつからこんなにものを言うようになったのかと自分でも驚いた。
立ち止まってその場に座り込む。
母に会えた。
お母さんに…それなのに……。
「どうする?」
『宿を探そう、疲れちゃった。』
エルがここまで連れて来てくれたのに、ごめんね。
「……美影は、知らない間に遠くへ行く。」
遠くへ…?
「何もできなかった美影は、もういないでしょ。転んでも立ち上がる。人間ってよくわからない。」
いつの間にかエルは変装を解いていて元の髪色と目に戻っていた。
真っ白な髪と月白色の瞳は雪と反射してキラキラと光っている。
でもその綺麗な瞳には何も写っていないようだった。
『生きていれば誰でもそうなるんだと思うよ。転んでも立ち上がるのは本能ってやつなんだと思う。貴方達は違うの?』
「…どうだろう、よくわからない。
僕はずっとひとりだったから、傷付くこともなかったんだ。」
なんて寂しいんだと、雪を掴む。
手を伸ばして掴んでもするりと消えていくような悲しい感覚だ。
皆が他人に対して顔を歪めたりするのは、こういう感覚なんだと今更ながら知った。
「でもアイツら…宙とかいう奴らが傷付いたりしているのを見ると、やっぱりそういうものがあるのかもしれない。長い間生きたんだ…わからないのはその代償なのかもね。」
無表情のまま淡々と話す彼を見て
どうしようもなくもどかしくなる。
『長い間ってどのくらい?』
「何千年…もう覚えてないや。僕は不老不死だから。」
『!?』
じゃあエルはずっと、長い間……。
「行こう、体が冷えるよ。」
『…うん』
かける言葉がなかった。
自分にはあまりにも現実味のない話で、どうしようもなかったんだ。
独りぼっちは辛い、でもその分楽だ。
彼のことをとやかく言う資格なんて私には無い。
いつか彼にも、知って欲しい。
立ち上がる意味を。