天使と悪魔の子
「よそ見は禁物ですよ。」
瑠璃さんが私の足にぶらさがる。
すると一気に宙の抱える重さは増え地面に落下した。
『う"っ…』
「はぁっ」
瑠璃の息を吸う音が聞こえた。
噛まれると思ったが宙がまたもやそれを庇う。
「お前の相手は俺だ。」
「……邪魔ですね。」
苛立っているのか凄い殺気を飛ばしている。
「瑠璃の一族は悪魔の中でもグルメで戦闘に長けているんだ。獲物を狙った時、正直俺でもゾッとする。」
玲夜が物語を語る口調で悠長に話している。
恐ろしい話をよくも易々と……。
「まぁでも彼女、狙っているのは君だけじゃないらしい。」
『っ!』
宙の首元や手首、明らかに噛みつきに行っている。
あんなに接近されてちゃ攻撃を打つ隙もない。
『宙っ』
「おっと、俺の事忘れんなよ。」
立ちはだかる玲夜
彼は力技が得意らしい、いや、人間にとったら彼等の力技は全て驚異だ。
その中でもずばぬけているというのだから接近戦はよくない。
前もいとも簡単に骨をおられてしまった。
私は咄嗟に銃を想像して弾を放つ。
「銃なんか効かな……っ!!」
『ばーか』
私が放ったのはただの銃じゃない。
特殊な閃光弾だ。
その光は彼らに毒。
隙をついて宙の元へ走った。
『行くよっ』
「……!わかった」
宙は私を抱えて空に舞う。
一度結界を解除しもう一度外から更に強度を高めて結界を貼った。
これですこしは時間が稼げる。
「美影、」
宙がなにか話したそうにするが、次の瞬間衝撃的な展開が起こった。
ーパリンッ
『うそ』
宙も予想外だったのかスピードを速める。
『瑠璃だ』
「あいつの目的は俺達の血。自分のモノにするまでずっと追ってくる。」
聞いていたがそこまで危険人物だとは……しかも同い年くらいの女の子だ。
玲夜よりもよっぽど恐ろしい。
ーガシッ
『……!!』
また足首を掴まれた。
どうしてこんなに速いの!?
しかも羽を出していない。
ここまで脚の力だけで……
『い、いたいっ!!』
足首を強い力で握られる。
「美影を離せ」
宙は手を彼女の額に押し付け火を放つ。
「うっ」
一瞬緩んだ隙に私は彼女を蹴った。
女の子に暴力なんて以ての外だがそんなことは言ってられない。
しかし彼女も超人だった。
空中で回転し今度は私の腕を掴んできた。
「血を…寄越せ」
ーシュッ
爪が微かに腕を切った。
それを口に運び彼女は今まで無表情だった顔を緩ませた。
高揚した頬、その目にはしっかりと私の血が映り込んでいる。
「はぁっなんて美味しいの!これが世界で二番目に高貴な血……。」
一番はやはり祖父の血だろう。
母の血はなぜ狙われなかったのか?
そんな考え事などできないほど混乱した。
「私から血を吸われた相手を少しの間操れるの。」
瑠璃が宙に勝ち誇った笑みを向けるとそのまま地面に落ちていった。
「美影っ、大丈…」
ーチュ
なんてことをしてしまったのだろう。
宙の頬にキスをしてしまった。
なんとか抵抗して唇は避けたのだがどうしようもない。
瑠璃はいったい何を考えて……
「美影、だめだよ。」
それなら拒んでよ。
なんて思っていると今度は腕が勝手に宙を押した。
これは、私を宙から落とそうとしているのか?
下を見るとそこは山だった。
私の手足は勝手にバタつき宙が飛ぶのを邪魔している。
やだ、宙の邪魔をしたくないのに。
『宙』
私の手は今度、彼の首に手をかけた。
ゆっくりじわじわ力が籠る。
『や、やだ!!宙、私を落としてっっ』
体が勝手に動く。
そして彼を殺そうとしている。
「やだ、離さない。」
そんな事言われても、宙が!!
宙は私に謝って額に手を当てた。
「“眠の楽園”」
そう聞こえた瞬間、意識は遠のいた。