Cymbidium
「愛美ー!わりぃ、これ3-1に届けといて!」

私立紫蘭高校。廊下の端にいてもよく通るその声に、
廣田愛美(ひろた まなみ)はビクッと肩を震わせた。
振り返ると、ガタイの良いジャージ姿の男が、ダンボール2箱を抱えて、笑顔でやってくるではないか。

『中澤先生ー。一階上がるだけじゃん、自分で行ってくださいよ』

「まあ、そう言うな。俺は忙しいんだ」

愛美は一瞬にして疑いの目をつくり中澤に向けた。

『忙しくても部員とキャッチボールという名の遊びをするヒマはあるんですね?』

「それはお前、あれだよ。貴重な休み時間で部員たちの技術向上をだな…」

『わかりましたよ、運びますー。3-1でしたよね?』

「さすが俺らの野球部マネージャー。よろしくなっ」

後半、もう文句をつけるのも面倒になった愛美は苦笑いで引き受けた。中澤はすでにグラウンドに駆け出していた。


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