struck symphony


「あっ、すみません」


電話を終えた陽音が、
恵倫子のもとへと歩み寄った。


「洗い物、有難うございました」

「いいえ、とんでもないですっ、
私たちの方が、お世話になりましたので。

本当に 有難うございました」


恵倫子は、椅子から立ち上がり、
深々と 頭を下げて 陽音に御礼を伝えた。

陽音も 一礼で応える。



「あの、恵倫子さん、御自宅どこですか?
今、
メンバーからの電話だったのですが、
今から 打ち上げに合流しないといけなくて、
その前に お宅に送ります」


「あ…、なんだか申し訳ない…。
お急ぎなのでしょう?
私たちは、大丈夫です。自分たちで帰れます」

「いいえっ、夜道は危険です。送ります!」

「あっ…はい。じゃあ、お願いします」

「はいっ」

「着替えだけしても、良いですか?」


「あっどうぞ!

急にバタバタになって、すみません。
でも、旦那さんも心配してるでしょうから、
なるべく早い方が良いですよね」



部屋の扉を一歩出た恵倫子は、
陽音の言葉に 足を止めた。


そして、
静かに 陽音に告げる。



「あっ…、いえ。…、旦那は、居ません」


「え…」


「私…、シングルマザーなんです。
だから、その点は、御心配なく」


「あ…。そうでしたか…、すみません」


「いいえ、お気になさらないでください。
普通にそう思いますよね。
御気遣い、有難うございます」





“…そうなんだ…”


陽音の心に、安堵感が、沸き起こる。




「じゃあ……、ここに居てください」




「え?…」


予想外の言葉に 驚く、恵倫子。




陽音は、
愛しい恵倫子を 帰したくない…と 思った。





“香大さん?… 今…なんて …”





ふたりの間に、沈黙の時間(とき)が流れる。
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