struck symphony
夜が明けて ー





カーテンの隙間から 射し込む朝日に、
恵倫子は、目を覚ました。


眠気眼をこすりながら…


“あれ?…”


畳で添い寝をしていたはずが、
ソファーベッドに
しかも、
ちゃんと掛け布団が掛かっていることに 気付く。




“あっ… 香大さんが?…”



起き上がり 見渡すと、
グランドピアノの傍のソファーで
陽音は、眠っていた。



“帰ってきてたんだぁ。

全然、気付かなかったぁ。

ソファーで寝ちゃって、体、きつくないのかな…”



帰宅後も仕事をしていて そこで寝てしまったのだろうか…と、陽音の熱心さを思いながら、
恵倫子は、
ソファーベッドから立ち上がり、
側の畳のスペースで眠っている響の様子を覗くと、
すやすやと気持ち良さそうに眠っていて、
その愛らしさに おでこに そっとキスをした。


そして、
響の掛け布団を綺麗に掛けなおして、
押し入れにあった毛布を手に
ソファーで眠る陽音へと 歩み寄った。


「お疲れ様です」


そっと囁き、陽音に毛布を掛ける。


無防備で、澄んだ寝顔…


その寝顔を見つめながら、恵倫子は、思う。



“昨日は…、
コンサートの後で
初対面の私達を お世話してくださって、
その後に、
打ち上げに合流して…

香大さんは、多忙な1日でしたよねぇ…

お忙しい御方なのに…御迷惑かけちゃったな…”



陽音の寝顔を見るのは、
昨日から 二度目。


まだまだ馴れない 新鮮な寝顔を見ながら、
その 愛しい寝顔に…


“香大陽音さんの、寝顔が見れるなんて…”


と、
恵倫子は、自分だけの 特別を感じた。


そして、


そんな陽音から、
出逢った夜に
いきなり告白をされた事を思い出し……蘇り…


急に、恥ずかしくなり…



でも、

陽音の寝顔を見てたら、夢なんじゃないか…
と 思えてきて…



“…なんだか…、
妙にブルーな気持ちになってきた…
…いけない、いけない… …、あっ、そうだっ”



恵倫子は、昨晩の御返しに 朝食を作ろうと思い、
キッチンへと向かった。



“なに作ろう…”



眠っている空間で、
あまり音を立てたくもないなぁ…とも思いながら。



「失礼しまぁす」


食材を見てから考えようと
恵倫子は、そっと冷蔵庫を開けた。



“あっ、フランスパンがある。余りものかな。
じゃあ~、卵…、あった。
牛乳、砂糖、バニラエッセンスもある。
フランスパンの フレンチトースト、作ろっかな♪”



恵倫子は、なんだか楽しくなってきて、
音に配慮しながら ウキウキ気分で作りはじめた。






甘い いい匂いに誘われて、
陽音は、目を覚ました。


頭を起こして
匂いを伝うようにキッチンへと視線を投げると、

恵倫子の姿を見つけ、
楽しそうな恵倫子の様子に
微笑みながら 優しく眺める。


目覚めたら 愛しい女性がいるという、光景。


陽音は、初めて味わう新鮮な朝に 心を寄せた。








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