struck symphony
ツアーは、終盤へ ー
ーツアーファイナル!いよいよ日本で!ー
高らかにテレビやラジオでも宣伝され、
テレビや ラジオも好きな恵倫子も、耳にする。
行きたかったのだが、
響が、泣き出してしまった出来事を教訓に
もう少し大きくなってから と考え、
今回は、チケットを取るのを控えた。
“そういえば…
あのとき、響は どうして泣いたのだろう…”
恵倫子は、ふと、不思議に思いながら…
ーー
その頃、
陽音は、最後のツアー開催地である、
日本に到着していた。
宿泊ホテルの部屋に着くや否や 荷物を置き、
すぐさま
部屋を出ようとする。
すると、
ー コンコン ー
部屋の扉が、ノックされた。
「はい」
「あたし」
扉を開けると、鮎原ミアが立っていた。
彼女は、サポートメンバーとして
陽音のツアーに同行している、ハープ奏者。
日本人の父と英国人の母を持つハーフ。
陽音とは、
同じ音楽大学の同期で、古い付き合いになる。
そのせいか、
陽音に対して、いつも 図々しく接する。
ミアは、陽音にお伺いを立てることなく、
陽音の承諾も得ないまま
勝手に 部屋の中へと入った。
「お、おいっ」
迷惑そうにする陽音に ミアは、お構い無し。
「おいっ、仲間だからって、
男の部屋に入ってくるか。部屋にふたりきりは、」
ミアは、透かさず言葉を挟む。
「大丈夫よ。私たちが古い付き合いなのは、
メンバーも ファンも知ってることじゃないの」
確かに、知ってること。
それは、音大からの友人であり、
ともに楽器演奏者である ということ。
で、それ以上の親しさは、無い。
少なくとも、陽音には。
陽音は、馴れ馴れしい女性は苦手だ。
だが、
ミアの ハープの腕は、一流。
故に、
同期という縁もあり、
ともに チームとしてやっている。
そして、
どう示しても変わらない ミアの馴れ馴れしさを
陽音は、躱してきた。
恵倫子の存在ができてから、躱す気持ちは、
強まった。
もともと
異性とは弁えたい性分の陽音は、
恵倫子の存在ができて 更に、
恵倫子以外の女性とは、
特に、
昔から 必要以上に馴れ馴れしいミアとは、
弁えたい気持ちが、強くなった。
だが、ミアは、
いつも通りの馴れ馴れしさで ソファーに座る。
ふと、陽音の様子に気づく。
「出掛けるの?」
「あぁ。
だから、出てくれ」
「どこに行くの?私も行こうかな~」
陽音は、返事をせず、
ミアが出るのを促そうと 扉へと向かう。
その無言の背中に向かって、ミアは、言葉を投げた。
「えりこさんの所~?」
目を見張り、陽音は 振り返る。
「そんなに驚く!?」
ミアは、思わず吹き出した。
「なんで知ってるんだ」
「なんでって、
電話してたじゃない、駐車場っ…」
ミアは、言い掛けて 言葉を呑む。
「?…駐車場?」
恵倫子と付き合いはじめて、
陽音は、恵倫子との関係を邪魔されず
大切に築いていけるよう、
電話をするにも 気をつけていた。
自宅や車の中で 話すようにしてきた。
なのに、
電話のことを知っているミアの言い掛けた、
“駐車場”から、
陽音は、自分の行動の記憶を辿る。
“あっ…”
ある日、リハーサルを終え メンバーと別れて、
ひとり 駐車場に向かったとき、逸る気持ちで
車に乗る前から
電話を掛けたことがあったことを 思い出す。
「あぁ…あのときか。
メンバー達と一緒に 俺とは逆方向に帰ったはずだが…、
跡でもつけてたか?」
「なっ!?、そんなことしないわよっ…」
「なら、
何故 知ってるんだ?」
「…」
ミアは、想いを寄せている陽音の異変を感じ、
気になり…
こっそり跡をつけ、
電話を聞いてしまったことを思い出しながら、
言葉に詰まる。
陽音は、ミアのしそうなことだ と、
容易に想像でき、呆れ顔で 溜め息をついた。
「溜め息…つかないでよ。傷つくじゃない」
「傷つく?」
「そうよ!
私は、陽音を心配してっ」
「心配?」
「そうよっ?」
「…。
どうせ 知られたのだし、
この際だから、言っとく。
俺とミアは、仕事仲間だ。
それ以上の感情は無い。
だから、
俺のプライベートにまで 干渉してくるな」
陽音は、いつもより低いトーンで言い放つと、
部屋を出ようと 扉へと向かった。
「行くの?
ねぇ、 ねぇってば!
こんな大事なときに女の所に行くなんてっ、
どうかしてる…
…、異常な行動よっ」
ミアは、陽音を引き留めるために、
わざと強烈な言葉を言った。
陽音は驚き、怪訝に聞き返す。
「異常?」
「そうよ? 陽音らしくないっ!」
「俺らしくない?」
「そうよ!
こんな大事な時に なんのつもり?
女の所へだなんて!
陽音のことだから、心乱されるだけよ!」
ミアの言葉に、
陽音は、冷静に言った。
「彼女と会えない方が、心乱される」
「なっ…」
「人の行動をコソコソ探る方が、異常じゃないのか?
それと、
俺らしくない と言ったが…
君は、俺という人間を知らない。
君の演奏の腕を信頼し、
同心戮力に 君を信頼しているが、
音楽家の同志であり、それ以上は無い。
知ったような口を聞くな」
“怒ってる…よね… こんな陽音、見たことない…”
強烈な言葉をぶつけたりして、
流石に怒らせたか…と、
ミアは、黙る。
陽音が、声を抑えながら、口を開いた。
「初めてのことが続いて、心が、やばい。
大事なツアーを、
ラストまで きっちり成功させなければならない。
だからこそ、
冷静を取り戻すためにも、
今、どうしても 恵倫子に会いたい。
これが、俺だ…」
陽音の口から 彼女の名前をダイレクトに聞き、
ミアは、どきりとした。
陽音の本気さが伝わってきて、
何も言えなかった。
「仕事仲間として、伝えておく。
リハまでには、ちゃんと戻る。
仕事の迷惑は掛けない」
そう告げて、
陽音は、部屋を後にした。 ーー
ーツアーファイナル!いよいよ日本で!ー
高らかにテレビやラジオでも宣伝され、
テレビや ラジオも好きな恵倫子も、耳にする。
行きたかったのだが、
響が、泣き出してしまった出来事を教訓に
もう少し大きくなってから と考え、
今回は、チケットを取るのを控えた。
“そういえば…
あのとき、響は どうして泣いたのだろう…”
恵倫子は、ふと、不思議に思いながら…
ーー
その頃、
陽音は、最後のツアー開催地である、
日本に到着していた。
宿泊ホテルの部屋に着くや否や 荷物を置き、
すぐさま
部屋を出ようとする。
すると、
ー コンコン ー
部屋の扉が、ノックされた。
「はい」
「あたし」
扉を開けると、鮎原ミアが立っていた。
彼女は、サポートメンバーとして
陽音のツアーに同行している、ハープ奏者。
日本人の父と英国人の母を持つハーフ。
陽音とは、
同じ音楽大学の同期で、古い付き合いになる。
そのせいか、
陽音に対して、いつも 図々しく接する。
ミアは、陽音にお伺いを立てることなく、
陽音の承諾も得ないまま
勝手に 部屋の中へと入った。
「お、おいっ」
迷惑そうにする陽音に ミアは、お構い無し。
「おいっ、仲間だからって、
男の部屋に入ってくるか。部屋にふたりきりは、」
ミアは、透かさず言葉を挟む。
「大丈夫よ。私たちが古い付き合いなのは、
メンバーも ファンも知ってることじゃないの」
確かに、知ってること。
それは、音大からの友人であり、
ともに楽器演奏者である ということ。
で、それ以上の親しさは、無い。
少なくとも、陽音には。
陽音は、馴れ馴れしい女性は苦手だ。
だが、
ミアの ハープの腕は、一流。
故に、
同期という縁もあり、
ともに チームとしてやっている。
そして、
どう示しても変わらない ミアの馴れ馴れしさを
陽音は、躱してきた。
恵倫子の存在ができてから、躱す気持ちは、
強まった。
もともと
異性とは弁えたい性分の陽音は、
恵倫子の存在ができて 更に、
恵倫子以外の女性とは、
特に、
昔から 必要以上に馴れ馴れしいミアとは、
弁えたい気持ちが、強くなった。
だが、ミアは、
いつも通りの馴れ馴れしさで ソファーに座る。
ふと、陽音の様子に気づく。
「出掛けるの?」
「あぁ。
だから、出てくれ」
「どこに行くの?私も行こうかな~」
陽音は、返事をせず、
ミアが出るのを促そうと 扉へと向かう。
その無言の背中に向かって、ミアは、言葉を投げた。
「えりこさんの所~?」
目を見張り、陽音は 振り返る。
「そんなに驚く!?」
ミアは、思わず吹き出した。
「なんで知ってるんだ」
「なんでって、
電話してたじゃない、駐車場っ…」
ミアは、言い掛けて 言葉を呑む。
「?…駐車場?」
恵倫子と付き合いはじめて、
陽音は、恵倫子との関係を邪魔されず
大切に築いていけるよう、
電話をするにも 気をつけていた。
自宅や車の中で 話すようにしてきた。
なのに、
電話のことを知っているミアの言い掛けた、
“駐車場”から、
陽音は、自分の行動の記憶を辿る。
“あっ…”
ある日、リハーサルを終え メンバーと別れて、
ひとり 駐車場に向かったとき、逸る気持ちで
車に乗る前から
電話を掛けたことがあったことを 思い出す。
「あぁ…あのときか。
メンバー達と一緒に 俺とは逆方向に帰ったはずだが…、
跡でもつけてたか?」
「なっ!?、そんなことしないわよっ…」
「なら、
何故 知ってるんだ?」
「…」
ミアは、想いを寄せている陽音の異変を感じ、
気になり…
こっそり跡をつけ、
電話を聞いてしまったことを思い出しながら、
言葉に詰まる。
陽音は、ミアのしそうなことだ と、
容易に想像でき、呆れ顔で 溜め息をついた。
「溜め息…つかないでよ。傷つくじゃない」
「傷つく?」
「そうよ!
私は、陽音を心配してっ」
「心配?」
「そうよっ?」
「…。
どうせ 知られたのだし、
この際だから、言っとく。
俺とミアは、仕事仲間だ。
それ以上の感情は無い。
だから、
俺のプライベートにまで 干渉してくるな」
陽音は、いつもより低いトーンで言い放つと、
部屋を出ようと 扉へと向かった。
「行くの?
ねぇ、 ねぇってば!
こんな大事なときに女の所に行くなんてっ、
どうかしてる…
…、異常な行動よっ」
ミアは、陽音を引き留めるために、
わざと強烈な言葉を言った。
陽音は驚き、怪訝に聞き返す。
「異常?」
「そうよ? 陽音らしくないっ!」
「俺らしくない?」
「そうよ!
こんな大事な時に なんのつもり?
女の所へだなんて!
陽音のことだから、心乱されるだけよ!」
ミアの言葉に、
陽音は、冷静に言った。
「彼女と会えない方が、心乱される」
「なっ…」
「人の行動をコソコソ探る方が、異常じゃないのか?
それと、
俺らしくない と言ったが…
君は、俺という人間を知らない。
君の演奏の腕を信頼し、
同心戮力に 君を信頼しているが、
音楽家の同志であり、それ以上は無い。
知ったような口を聞くな」
“怒ってる…よね… こんな陽音、見たことない…”
強烈な言葉をぶつけたりして、
流石に怒らせたか…と、
ミアは、黙る。
陽音が、声を抑えながら、口を開いた。
「初めてのことが続いて、心が、やばい。
大事なツアーを、
ラストまで きっちり成功させなければならない。
だからこそ、
冷静を取り戻すためにも、
今、どうしても 恵倫子に会いたい。
これが、俺だ…」
陽音の口から 彼女の名前をダイレクトに聞き、
ミアは、どきりとした。
陽音の本気さが伝わってきて、
何も言えなかった。
「仕事仲間として、伝えておく。
リハまでには、ちゃんと戻る。
仕事の迷惑は掛けない」
そう告げて、
陽音は、部屋を後にした。 ーー