struck symphony
ドーナツショップは、
駆け込んでくる客で、満席になった。



窓際に座っている恵倫子と響は、
突然に窓を打ち付ける雨音に、視線を投げる。


ネオンが透明の中で滲む様を 面白がる、響。

傘を持って来なかったことに、憂鬱な表情になる、恵倫子。


「雨、止むかなぁ」


恵倫子の問い掛けに
響は、全く困った感じはなく
ただ はしゃいでいる。



恵倫子は、
雨が止むのを ここで待ってみることにした。




ーー




アンコールを終え、
沸き立つ歓声に 陽音が深い礼で応える中、
幕が、
ゆっくりと降ろされてゆく。



幕が閉じても 響いてくる歓声と拍手を胸に刻み、
陽音は、
余韻嫋々に ステージを下りた。


一抹の もの悲しさを 不意に抱きながら…






祝福するスタッフや関係者と
挨拶や握手を交わした陽音は、

自分の楽屋へ戻り、楽譜や必要道具を片付け、
トランクケースに荷物をまとめた。

それを手引きながら、楽屋を後にする。




駐車場へと向かう陽音に、
照明エンジニアの竜胆 寿(りんどうたもつ)が、
声をかけた。


「あれ?香大さん。この後、打ち上げ!」

「あぁ行くよ。
一端、荷物を置いてから向かうよ」

「あぁ!そうですか!
先に行って待ってますよ。主役ですからね、
早く来てくださいよ」

「あぁ、ありがとう」


にこやかに会話を交わし、
陽音は、自分の愛車、R8に乗り込んだ。

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