struck symphony
明るい陽射しを感じ、
陽音は、ふと 目を覚ました。


ソファーに横たわる 自分、
そして、
部屋を見渡し……


“あぁ…そうか… …恵倫子の家に来たんだった…”


陽音は、なんだか ホッとする。

そして、
いい匂いに 徐にキッチンを見上げた。

すると、
頭の上のタオルが落ち、



“あっ… …、あぁ…そうか…”



自分が具合が悪くなったことを なんとなく、
思い出し…

頭が、ぼーっとするなか、
服が脱がされていて、
脇下などに 保冷剤を包んだタオルが 挟まれていることにも気付き、


“あぁ…、恵倫子が…。 迷惑かけたなぁ…”

と、感謝しながら…



“…ということは…、

恵倫子が脱がして やってくれたわけか…”


と…、
陽音は、急に恥ずかしくなった。






そして…、



“あっ…。。”



恵倫子を押し倒して 迫ってしまったことも
思い出した。


陽音は、目を閉じ、
恵倫子と顔を合わせづらい心境になった。





不意に、
頭に感触を感じて、目を開ける。


すると、
響が 枕元に立っていて、
陽音の額に タオルを宛がっていた。


「あぁ、ゆらちゃん。 ありがとう」

「熱、下がったねぇ」


響は、宛がったタオルを
優しくポンポンとしながら、陽音に微笑んで 頷いている。


その様子に気づき、恵倫子は、声を掛けた。


「陽音さん、起きたの?大丈夫?」


そして、
陽音へと歩み寄った。


陽音は、ゆっくりと体を起こす。



顔を合わせづらいながらも、
変わりない恵倫子の様子に、
陽音は、ぎこちなさを胸に仕舞い…
病み上がりな声で、応えた。


「あぁ…大丈夫」

「良かったぁ」



安堵しながら微笑む、恵倫子。

そんな恵倫子に微笑みを返しながら、
陽音は、ソファーの背凭れに背中を預けた。




「あっ、もうこんな時間っ。陽音さんっ、
幼稚園バスが来るから、
ゆらの見送りに ちょっと行ってくるね」

「あっ、そっか。
ゆらちゃん、行ってらっしゃい」

「行ってきまぁす」


ーー


静かになった部屋で、
陽音は、徐に ソファーの周りを見渡した。

洗面器や沢山のタオル、救急箱に体温計…


その状況から、
恵倫子が、夜通し看病してくれたことを知り、
寝不足なのでは…と 察する。



程無くして、ゆらの見送りから 恵倫子が戻って来た。


「ただいまぁ」

「おかえり」

このやり取りに 懐かしさを感じる。



「お腹すいたでしょ?」

「いや、あんまり…」

「だめよ、病み上がりでも ちゃんと食べなきゃ」

「あ、はい」


陽音は、叱られた子どものように返事をした。


「すぐに用意するね」

「あぁ」



穏やかな時間のなかで、
陽音は、リビングのソファーに凭れ、
キッチンにいる恵倫子を 愛しく見つめる。

まるで、
夫婦のような 感覚…



「恵倫子」

「ん?」


「看病してくれたんだね。ありがとう。
迷惑かけたね」


「迷惑だなんて、全然。
ただ、
びっくりはした」


「あっ…」

“やっぱり…、あのこと…。そうだよな…”


「ごめん」


「えっ… …、あ…」


恵倫子は、陽音が何を謝ったのか すぐに察した。
だが、
気まずい雰囲気を 慌てて避けた。

ごめん の一言が、嬉しかったから…
それ以上は、責める気もなかった。

恵倫子は、笑顔で語りかける。


「熱がね、凄く高かったから、
ほんと、どうしようかと思ったの。
だけど、
下がったから、ほんと良かったぁ」


「あぁ。本当に、ありがとう」

「ううん。陽音さん、きつかったでしょ?」

「あんまり覚えてないんだ…
頭が、まだ少しぼーっとしてる」

「そう。今日は、コンサートなんじゃ…」

「うん」

「なのに来てくれたの?」

「恵倫子に会いたかったから」



「陽音さん…」



「ずっと会えなかったから…会いたかった」


「うん… …私も…」



ふたりは、見つめ合う。



「日本に戻って来た途端、
会いたくて… たまらなくて…
どうにかなってしまいそうだった…

こんな気持ちのまま コンサートを迎えたら、
ラストが、台無しになってしまう… って…思ったんだ」



陽音の言葉を聞きながら
“そんなにも…”
と…、
恵倫子は、万感の想いを胸に 陽音を見つめる。





陽音の想いが… 嬉しくて…

自分の想いと重なって…

恵倫子は、涙が零れた。




恵倫子の涙を見て、
陽音の心に 優しさ溢れる熱い想いが、更に込み上げ、
恵倫子への 愛しい想いが……溢れ出て………


陽音は、囁くように 優しく言った。



「恵倫子、こっちに来て」


恵倫子は、涙目で頷きながら 陽音へと歩み寄る。



陽音は、ゆっくりと立ち上がり、

歩み寄る恵倫子へと 手を伸ばし、

優しく手を掴み、自分へと引き寄せ、

愛おしく… 抱きしめた…




「あぁ… ほっとする…」


陽音が、耳元で囁く。


恵倫子は、心地良さに 陽音に心身を委ねる…







「それにしても…
… なんで熱が出たのかなぁ…」


恵倫子を抱きしめたまま、陽音が、ぽつりと呟いた。


「…疲れが、溜まってたんじゃないかな…。。
でも、
すぐに下がったから 良かったね」


「あぁ。

あっ!
たぶん …
恵倫子にずっと会えなくて、熱を出したんだっ」


「ん?」


「ほら、我慢してると 具合が悪くなること、あるだろ?」


「ぇえ? 子どもみたい」



恵倫子は 思わず笑って、
無邪気な陽音が 愛おしくて、
顔を寄せる陽音の首元に キスをした。



「ん? 今っ」

「ん?」

「え?」

「なに?」

「したよな?」

「なにを?」

「キス。 恵倫子から」


恵倫子は、可愛く首を傾げる。


「したよ」



そう言って、陽音は、恵倫子を見つめて、


優しいキスをした …




そう

今度は… 優しいキス … ーー
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