struck symphony
激動のように響き流れた奏から、
静まるステージ。
陽音がピアノから立ち上がり、一礼する。
拍手が湧き、会場内が あたたかい空気に包まれる。
陽音は、マイクスタンドからマイクを取り、
観客は、コンサートの楽しみのひとつでもある、
陽音のMCのはじまりに、第一声を 待ちわびる。
「皆様、こんばんは。香大陽音です」
観客から 拍手が湧き起こる。
それは、
陽音のピアノを好み、聴き続け、
国内でのコンサートを見続けてきたファンの誰もが、
望み、待ちに待った、
念願のワールドツアー開催への
感激と 歓喜と 祝福を込めた、
愛情いっぱいの拍手。
“さん ではなく、様 っ言うんだ…なんて丁寧”
陽音のMCのはじまりは とても丁寧だ と、
耳にしたことがある。
様 と呼ぶそのひと言に、
陽音の 観客への感謝の想いを感じる。
前回の初めての機会では観ないままだったから、
やっと初めて 生で聞けて、
恵倫子は、感慨無量。
陽音の 透き通る声が、続いていく。
「今日は、お天気が良くないですねぇ。
そんななかでも
こんなに沢山の方にいらしていただけて、
本当に… 胸がいっぱいです」
陽音の言葉に、観客たちは、
私達も胸がいっぱいだ…と言わんばかりの
大きな拍手で 気持ちを返した。
程よく 拍手は鳴り止み、
陽音が、
目の上に手をかざす仕草をしながら、
観客席を見渡し始めた。
その意図はわからずながらも、
その仕草の無邪気さに、
客席から少しのざわめきが起こる。
その堅苦しくない雰囲気が、
なんともリラックスながらに観れて、心地良い。
初めて観た恵倫子も、
陽音のコンサートならではといった良さを
しみじみと感じた。
「いやぁ~、これだけ人がいれば、
僕の友達もいるんじゃないかなぁと思ってね」
観客から、微笑ましい笑いが起こる。
恵倫子は思わずどきっとしながらも
“あぁ…友達ね”と、
まさか ここで言うはずもないことに
心を落ち着かせながら、皆とともに 微笑んだ。
「はいっ」
突然に手を上げる男性客。
それに続けとばかりに 女性客も
また男性客も あちらこちらから手が上がり、
「あぁ!僕の友達だっけ?」
と、陽音は 笑いながら声を掛け、
観客と陽音の 臨機応変な掛け合いに、会場内には、
一層の笑いが 巻き起こった。
陽音も 声を出して笑う。
恵倫子は、演者と観客から生まれた一体感に、
不思議さを感じながら…
“ざっくばらんな ピアノコンサートだなぁ…”
と、初めて味わう珍しさに
他では味わえない と、
貴重な感覚で 感銘ながらに その空間を
愉しんだ。
陽音とともにステージにいる演奏者たちも
観客席を眺めながら 笑みを浮かべる。
ハープ奏者のミアもまた ともに微笑みながら、
リハーサルを きっちりやる時の
真剣な陽音とはまた違った、
一変する陽気な様に、陽音の不思議さと
コンサートの雰囲気の良さを
毎回、感じるのであった。
「みんな、傘は持ってきた?」
「持ってきたよ~」 「車に常備してる~」
陽音の問い掛けに 観客席のいろんな所から
返事が返される。
広い会場なので、陽音に近い方の観客の声が
よく届くようだが。
人よりずれて 返事を返した観客もいた。
恵倫子と同じ、
2階席で、
ステージに向かって右側最前列の男性。
「忘れました!まだ降ってなくて!」
その男性は、とても通る声で、皆の隙を狙ったように うまく陽音に届いた。
「あぁそうか、また降ってなかったからねぇ」
受け答えしてくれた陽音に、男性は、恐縮そうに
はにかみながら とても嬉しそう。
恵倫子から席が近くで、その様子が、よく見えた。
“堂々としてたように見えて、緊張したんだなぁ
滅多にないチャンスに 勇気を振り絞ったんだろうな”
そう思いながら、
恵倫子は、
隙を狙った良いタイミングに、凄いなぁと感心しながら、周りの人と一様に その男性の方に目を向けながら微笑んでいた。
そんな恵倫子の方へと
一直線に見上げ 眼差しを送る、陽音。
距離があり、恵倫子は、そんなこととは露知らず。
笑いのざわめきも一様におさまり、
恵倫子は、
そのまま 右隣の響へと視線を落とすと、
“あら…”
響は、眠ってしまっていた。
恵倫子は、
そっと微笑みながら、ステージへと視線を戻す。
そして、ステージ上の陽音を眺めながら、
展開を待ちわびる。
眺めていると、
喋りも 動きもせず、
じっと見上げている陽音に 気づき…
“え… ”
目を凝らし、自分を見つめている…と
気付いた恵倫子の心に 動揺が走る。
だけど、
妙な焦りの仕草は、
何も知らない周りの人に 変に思われてしまう。
恵倫子は、
一瞬、視線を落としたが、
心を落ち着かせ、冷静に… 冷静に… と、
自分に言い聞かせ、
再び、ステージへと 視線を投げた。
そして、
一直線に見つめくる陽音へ 視線を合わせる…
見つめ合う…
ステージ上の陽音と
2階席の 恵倫子…
“あ…… こういうのもあって
この席を 取ってくれたのかなぁ…”
恵倫子は、
こんな形で じっと見つめ合うとは…と、
貴重な体験を 心に刻んだ…
そんなふたりに
気付いてしまった ひとりがいた…
雫は落ちはじめ…
醇艶は… 開花する… ーーー
静まるステージ。
陽音がピアノから立ち上がり、一礼する。
拍手が湧き、会場内が あたたかい空気に包まれる。
陽音は、マイクスタンドからマイクを取り、
観客は、コンサートの楽しみのひとつでもある、
陽音のMCのはじまりに、第一声を 待ちわびる。
「皆様、こんばんは。香大陽音です」
観客から 拍手が湧き起こる。
それは、
陽音のピアノを好み、聴き続け、
国内でのコンサートを見続けてきたファンの誰もが、
望み、待ちに待った、
念願のワールドツアー開催への
感激と 歓喜と 祝福を込めた、
愛情いっぱいの拍手。
“さん ではなく、様 っ言うんだ…なんて丁寧”
陽音のMCのはじまりは とても丁寧だ と、
耳にしたことがある。
様 と呼ぶそのひと言に、
陽音の 観客への感謝の想いを感じる。
前回の初めての機会では観ないままだったから、
やっと初めて 生で聞けて、
恵倫子は、感慨無量。
陽音の 透き通る声が、続いていく。
「今日は、お天気が良くないですねぇ。
そんななかでも
こんなに沢山の方にいらしていただけて、
本当に… 胸がいっぱいです」
陽音の言葉に、観客たちは、
私達も胸がいっぱいだ…と言わんばかりの
大きな拍手で 気持ちを返した。
程よく 拍手は鳴り止み、
陽音が、
目の上に手をかざす仕草をしながら、
観客席を見渡し始めた。
その意図はわからずながらも、
その仕草の無邪気さに、
客席から少しのざわめきが起こる。
その堅苦しくない雰囲気が、
なんともリラックスながらに観れて、心地良い。
初めて観た恵倫子も、
陽音のコンサートならではといった良さを
しみじみと感じた。
「いやぁ~、これだけ人がいれば、
僕の友達もいるんじゃないかなぁと思ってね」
観客から、微笑ましい笑いが起こる。
恵倫子は思わずどきっとしながらも
“あぁ…友達ね”と、
まさか ここで言うはずもないことに
心を落ち着かせながら、皆とともに 微笑んだ。
「はいっ」
突然に手を上げる男性客。
それに続けとばかりに 女性客も
また男性客も あちらこちらから手が上がり、
「あぁ!僕の友達だっけ?」
と、陽音は 笑いながら声を掛け、
観客と陽音の 臨機応変な掛け合いに、会場内には、
一層の笑いが 巻き起こった。
陽音も 声を出して笑う。
恵倫子は、演者と観客から生まれた一体感に、
不思議さを感じながら…
“ざっくばらんな ピアノコンサートだなぁ…”
と、初めて味わう珍しさに
他では味わえない と、
貴重な感覚で 感銘ながらに その空間を
愉しんだ。
陽音とともにステージにいる演奏者たちも
観客席を眺めながら 笑みを浮かべる。
ハープ奏者のミアもまた ともに微笑みながら、
リハーサルを きっちりやる時の
真剣な陽音とはまた違った、
一変する陽気な様に、陽音の不思議さと
コンサートの雰囲気の良さを
毎回、感じるのであった。
「みんな、傘は持ってきた?」
「持ってきたよ~」 「車に常備してる~」
陽音の問い掛けに 観客席のいろんな所から
返事が返される。
広い会場なので、陽音に近い方の観客の声が
よく届くようだが。
人よりずれて 返事を返した観客もいた。
恵倫子と同じ、
2階席で、
ステージに向かって右側最前列の男性。
「忘れました!まだ降ってなくて!」
その男性は、とても通る声で、皆の隙を狙ったように うまく陽音に届いた。
「あぁそうか、また降ってなかったからねぇ」
受け答えしてくれた陽音に、男性は、恐縮そうに
はにかみながら とても嬉しそう。
恵倫子から席が近くで、その様子が、よく見えた。
“堂々としてたように見えて、緊張したんだなぁ
滅多にないチャンスに 勇気を振り絞ったんだろうな”
そう思いながら、
恵倫子は、
隙を狙った良いタイミングに、凄いなぁと感心しながら、周りの人と一様に その男性の方に目を向けながら微笑んでいた。
そんな恵倫子の方へと
一直線に見上げ 眼差しを送る、陽音。
距離があり、恵倫子は、そんなこととは露知らず。
笑いのざわめきも一様におさまり、
恵倫子は、
そのまま 右隣の響へと視線を落とすと、
“あら…”
響は、眠ってしまっていた。
恵倫子は、
そっと微笑みながら、ステージへと視線を戻す。
そして、ステージ上の陽音を眺めながら、
展開を待ちわびる。
眺めていると、
喋りも 動きもせず、
じっと見上げている陽音に 気づき…
“え… ”
目を凝らし、自分を見つめている…と
気付いた恵倫子の心に 動揺が走る。
だけど、
妙な焦りの仕草は、
何も知らない周りの人に 変に思われてしまう。
恵倫子は、
一瞬、視線を落としたが、
心を落ち着かせ、冷静に… 冷静に… と、
自分に言い聞かせ、
再び、ステージへと 視線を投げた。
そして、
一直線に見つめくる陽音へ 視線を合わせる…
見つめ合う…
ステージ上の陽音と
2階席の 恵倫子…
“あ…… こういうのもあって
この席を 取ってくれたのかなぁ…”
恵倫子は、
こんな形で じっと見つめ合うとは…と、
貴重な体験を 心に刻んだ…
そんなふたりに
気付いてしまった ひとりがいた…
雫は落ちはじめ…
醇艶は… 開花する… ーーー