struck symphony
陽音は、
じっと見上げ、
見つめ合う恵倫子へ そっと微笑む。



そして、
観客全体へと視線を移し、笑顔で一礼し、
この一心を噛み締めながら
マイクをスタンドに戻した。



次の曲の始まりを予感し、
観客たちは、静まる。



共演者たちは、演奏に入る姿勢をとる。


陽音は、静かに ピアノの前に座った。


そして ー




♪ ポロン… ポロン…



静けさのなかで、
陽音のピアノ演奏が ゆっくりと 始まった…




恵倫子には、
それはまるで 梅雨の薄暗がりに落ちはじめた、
一粒… 一粒の… 雫のように 感じた。




一瞬の間のあと、


低音から高音への スケールへ…


C G# A …


高音から低音への グリッサンド…


そして… ピアノの弦を 弾く…



張りつめた高音が 響いた…




ひと呼吸のあと

六奏者の融合した長調の調べが、

スローテンポで流れはじめた…



観客たちは、

それぞれの想いで 耳を研ぎ澄ます…

恵倫子も 優しい流れに 心地良くなってゆく…



奏は、流れゆき… 快演に続いてゆく…







暫くの長調ののち、短調へと 転調…


明るい感じから暗い感じへの変化に、

恵倫子は、哀しい雨音を感じた。




演奏は、流れ響き…




ポルタメントからの ポルタート…



そして…


軽快なアルペジオから
陽音のピアノ演奏が、荒々しく激しくなった。



鍵盤の端から端までを弾くように
指が、素早く滑らかに走る…


巧みに 腕が交差する…


その音と共に駆け抜けるような 共演者の奏と装飾音…


会場全体が、圧巻への感動の溜息に包まれ…


恵倫子も
陽音の妙技に 圧倒されながら…




激しく盛り上がる 陽音のピアノの旋律から…





“あっ…”





恵倫子に…




映像が… 観えた…










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