struck symphony
雨上がりを待ちわびながら、
外の雨景を眺めていた。
ふと、
人の流れや声が消えたことに気づき、
エントランスを見渡す。
あれほど居た人々は、いつの間にか居なくなり、
さっきまでの繁華からは 想像もつかない程、
真逆な雰囲気で、
人の疎らになったエントランスは、
まるで 静けさの海。
こんなにも静寂になるものか…
と、
祭りのあとの寂しさを感じる。
隣に座る響を見ると、
いつの間にか 眠っていた。
“もう遅い時間だし、今日は興奮したしねぇ”
恵倫子は、響の頭を そっと撫でた。
雨は、もう だいぶ止んできたようす。
暴風雨が雲を蹴散らしたかのよう…
満月が、顔を出す。
“もう止んだかなぁ… ”
少しの雨でも 響が濡れるのは避けたいし、
早く布団に寝かせてあげたいとも思うし…
“どうしようか…
と、
みるみるうちに 夜空から消えゆく雨雲に、
“そろそろ帰ろうかな… ”
と、
響を抱っこして、エントランスから外へ出たとき、
恵倫子の 携帯電話のバイブ音が鳴った。
着信画面を見て、すぐさま電話に出る。
「もしもし」
「恵倫子、」
「うん。
お疲れ様。
素敵なコンサートだったね!
凄く感動した!」
「そっか、良かった」
人それぞれの<感想>から生まれる<感動>というのは
共通な気がして、
コンサートの度に、
どんな感想からでも 感動していただけたら
光栄だ…と思いながら 心を込めて演奏している陽音にとって、とても嬉しい言葉で、
陽音は、安堵しながら応えた。
恵倫子が、ふと察して 尋ねる。
「もう 電話していいの?
まだ…」
「うん、まだ、会場内にいる」
「え…、電話、いいの?」
外とはいえ、エントランスの前。
まだ中には 疎らにいる人やスタッフがいて、
恵倫子は気付かれぬよう、
電話口で 陽音の名前を出さずに気遣う。
「うん。地下駐車場の…」
わざと間を開ける、陽音。
「…?
あっ、車の中」
「そうそう」
クイズの問題を言うような陽音の口調に
クスクスっと笑いながら 恵倫子はホッとする。
「恵倫子、今どこにいる?」
「エントランスにいる」
「迎えに行く。待ってて」
「あっ、」
「ん?」
「まだ、中に何人かいるよ?
まだ帰ってない御客さんとか 片付けしてるスタッフとか…」
「あぁ…、そうか…。まぁ、何人かなら」
陽音は、早く恵倫子に会いたい一心で
逸る想いのままに言う。
「だめ」
陽音と同じ気持ちだが、
それ故に、
陽音の立場も この関係も大切にしたい想いに
恵倫子は、慎重に 冷静に 優しく窘める。
「あ、はい」
恵倫子に言われて、
陽音は、子どもか生徒のように返事をした。
そして、そっと笑い合う。
「じゃあ、
人が居なくなるまで、暫く 電話で話してようか」
「うん」
誰も知らない、ふたりきりの電話…
なんだが… ふたりの秘め事みたい……
「まだ、エントランスにいたの?」
「うん。雨が止むのを待ってて…」
「あっ、傘を忘れたな?」
「そう」
「あの日、みたいだな」
自分が想っていたのと 同じ言葉を言う陽音に、
恵倫子は、心を寄せる。
馳せる想いに、陽音に伝えた。
「曲…、
わかったよ」
「あ…、
わかった?」
「うんっ。
どの曲も 勿論、素晴らしくて 素敵で…
そんな中で、
『あっ!』って、
凄く感じる曲があった…」
「感じた?」
「うん。凄く…」
「そうか」
陽音は満足げに、しみじみと言う。
「映像が見えたから…」
「映像が?」
「うん。
演奏を聴いてたら、あの日の光景が観えた…
あの日…、 出逢った日の、雨の中…
だから、
「この曲だ」って、強く想ったの」
「それは凄いなぁ…、恵倫子」
「ううん。
そう奏でられる陽音さんが、凄いの。
~ struck symphony ~
素敵な曲を、 ありがとう」
ふたりは、
電話越しの秘め事に快感するように
想いを交じらせる…
「あっ、
言ってなかった…」
「何を?」
「無事で、良かった。
おかえりなさい」
「ありがとう。ただいま」
今夜は、特に出たがりね…
満月が ふたりへ覗かせた、 ムーンボウ…
月の光から生まれた幻想に、
雨が、 上がる ー
外の雨景を眺めていた。
ふと、
人の流れや声が消えたことに気づき、
エントランスを見渡す。
あれほど居た人々は、いつの間にか居なくなり、
さっきまでの繁華からは 想像もつかない程、
真逆な雰囲気で、
人の疎らになったエントランスは、
まるで 静けさの海。
こんなにも静寂になるものか…
と、
祭りのあとの寂しさを感じる。
隣に座る響を見ると、
いつの間にか 眠っていた。
“もう遅い時間だし、今日は興奮したしねぇ”
恵倫子は、響の頭を そっと撫でた。
雨は、もう だいぶ止んできたようす。
暴風雨が雲を蹴散らしたかのよう…
満月が、顔を出す。
“もう止んだかなぁ… ”
少しの雨でも 響が濡れるのは避けたいし、
早く布団に寝かせてあげたいとも思うし…
“どうしようか…
と、
みるみるうちに 夜空から消えゆく雨雲に、
“そろそろ帰ろうかな… ”
と、
響を抱っこして、エントランスから外へ出たとき、
恵倫子の 携帯電話のバイブ音が鳴った。
着信画面を見て、すぐさま電話に出る。
「もしもし」
「恵倫子、」
「うん。
お疲れ様。
素敵なコンサートだったね!
凄く感動した!」
「そっか、良かった」
人それぞれの<感想>から生まれる<感動>というのは
共通な気がして、
コンサートの度に、
どんな感想からでも 感動していただけたら
光栄だ…と思いながら 心を込めて演奏している陽音にとって、とても嬉しい言葉で、
陽音は、安堵しながら応えた。
恵倫子が、ふと察して 尋ねる。
「もう 電話していいの?
まだ…」
「うん、まだ、会場内にいる」
「え…、電話、いいの?」
外とはいえ、エントランスの前。
まだ中には 疎らにいる人やスタッフがいて、
恵倫子は気付かれぬよう、
電話口で 陽音の名前を出さずに気遣う。
「うん。地下駐車場の…」
わざと間を開ける、陽音。
「…?
あっ、車の中」
「そうそう」
クイズの問題を言うような陽音の口調に
クスクスっと笑いながら 恵倫子はホッとする。
「恵倫子、今どこにいる?」
「エントランスにいる」
「迎えに行く。待ってて」
「あっ、」
「ん?」
「まだ、中に何人かいるよ?
まだ帰ってない御客さんとか 片付けしてるスタッフとか…」
「あぁ…、そうか…。まぁ、何人かなら」
陽音は、早く恵倫子に会いたい一心で
逸る想いのままに言う。
「だめ」
陽音と同じ気持ちだが、
それ故に、
陽音の立場も この関係も大切にしたい想いに
恵倫子は、慎重に 冷静に 優しく窘める。
「あ、はい」
恵倫子に言われて、
陽音は、子どもか生徒のように返事をした。
そして、そっと笑い合う。
「じゃあ、
人が居なくなるまで、暫く 電話で話してようか」
「うん」
誰も知らない、ふたりきりの電話…
なんだが… ふたりの秘め事みたい……
「まだ、エントランスにいたの?」
「うん。雨が止むのを待ってて…」
「あっ、傘を忘れたな?」
「そう」
「あの日、みたいだな」
自分が想っていたのと 同じ言葉を言う陽音に、
恵倫子は、心を寄せる。
馳せる想いに、陽音に伝えた。
「曲…、
わかったよ」
「あ…、
わかった?」
「うんっ。
どの曲も 勿論、素晴らしくて 素敵で…
そんな中で、
『あっ!』って、
凄く感じる曲があった…」
「感じた?」
「うん。凄く…」
「そうか」
陽音は満足げに、しみじみと言う。
「映像が見えたから…」
「映像が?」
「うん。
演奏を聴いてたら、あの日の光景が観えた…
あの日…、 出逢った日の、雨の中…
だから、
「この曲だ」って、強く想ったの」
「それは凄いなぁ…、恵倫子」
「ううん。
そう奏でられる陽音さんが、凄いの。
~ struck symphony ~
素敵な曲を、 ありがとう」
ふたりは、
電話越しの秘め事に快感するように
想いを交じらせる…
「あっ、
言ってなかった…」
「何を?」
「無事で、良かった。
おかえりなさい」
「ありがとう。ただいま」
今夜は、特に出たがりね…
満月が ふたりへ覗かせた、 ムーンボウ…
月の光から生まれた幻想に、
雨が、 上がる ー