struck symphony
陽音の 愛の公表から…

ひと月が経とうとしていた…





陽音から恵倫子へ 時々メールや電話はあったものの、
逢えないのは、やはり 淋しく…


でも、
付き合い初めの頃の 逢えなかった寂しさとは、
全然、違った。



もし、 例え…
このまま逢えなくなったとしても、


“私には…
陽音さんがくれた… …私と陽音さんの…

struck symphony がある…”






この曲で、恵倫子は、強くなれた。






休日の昼下がり。


struck symphony を聴きながら、

洗濯物を畳む。




“ピアノの音色に 洗濯物

日常のひとコマが、 優雅な時間になる

なんか… いいよね”



逢えないときに聴いていても、全然 辛くなかった。



傍らで、
響が、流れてるピアノに合わせて 弾く真似をしたり、
踊ったり、
時々 座って、一緒に畳んでくれたり、
そして、また踊ったり…


「忙しいねぇ」と、恵倫子は、目を細める。




ふと、響が、
「はるとおにぃちゃん、来ないねぇ」と言った。



陽音のピアノを聴いて、ふと思ったのだろう。




すると、
恵倫子の携帯電話が鳴った。

着信を見ると、陽音からだった。



「ゆら、凄いねぇ。ゆらが言ってたら、
陽音おにぃちゃんから電話きたよっ」


響は、「おっ?」と言いながら、おどける。


そんな可愛らしい愛娘に微笑みながら、
恵倫子は、浮かれ気分で電話に出た。



「もしもし、陽音さんっ?」

「あぁ。恵倫子っ、元気か?」

「うんっ」

「ゆらちゃんも、元気?」

「うんっ、とっても」

「そっか、良かった。声は聴いてるのにな、
逢ってないから… ひと月なのに、
もう随分、恵倫子と逢ってない気がする…」

「うん…」


本当は、“今すぐ逢いたい”と言いたい。

さっきまで平気だったのに…

声を聴いたら…

逢いたくて たまらなくなった…




でも、
“逢えない理由があるんだ…
仕事が、ハードなんだろうなぁ…”




恵倫子は、陽音の多忙を察する。




陽音は、
仕事帰りに しつこく車を追い回されることを
恵倫子に伝えてなかった。



心配させたくないし、
それに、そんな事は
すぐになくなると思っていたから。



しかし、
これ程 続けば、家を知られたり
大事になる前に、
対処しなければならない。



いつ解決できるかわからないし、
いつまでも逢えないままでは、心配するだろう。

恵倫子にも、
何故 逢えないのか、伝えておかなければならない。




陽音は、恵倫子に打ち明けた。



「恵倫子」

「ん?」

「伝えておかなければならない、大事な事が…」


………



………




「そうだったの?!
陽音さんっ、大丈夫なの!?
私っ、凄く心配!!」


「大丈夫だよ。

恵倫子とゆらちゃんには、無事いてほしいから…」



「陽音さんも!」



「あぁ、うん。

だから…



解決するまで、 もとの落ち着きを取り戻せるまで…




時間を置こう」





「あ…




暫く…逢わないでいこう、ってこと…ね?」





「あぁ」





“暫く…って、どれくらいだろう… いつまで…”




恵倫子の心は、
悲しみのどん底に突き落とされた……


でも、
前向きな明るい声で 陽音に言った。





「うんっ。わかったよ」




その声を聴いて…



健気に 明るく言う 恵倫子の声を聴いて…





陽音は…

恵倫子は いつも今のように明るくて、
不平不満も全く言わないことを
改めて 感じさせられる…



そして、



“何故、
僕たちが、逢わないようにしなきゃならない?”



と、強い疑問が 生まれた。




ふと、
あのときの、
見知らぬ女性の言葉を 思い出す。




“「結婚しないよねー」”





陽音は、思った。



“なら…結婚したなら、もう妨げもしようもないはず。

彼らは、自分たちの思うとおりのシナリオを

面白がってるのかもしれない。

僕たちが、マイペースにすることが、

追い回されることも払拭できるかもしれない。

また、もとの平穏な日常を 取り戻せるかもしれない。


いや…、更なる 幸せに…”




陽音は、心に決めた。




「恵倫子! 結婚しよう」




「……えっ」




携帯電話をしっかりと耳に宛がう 恵倫子は、
目を丸くする。




「さっき…、時間を置こう って…」

「やっぱり、ダメだ。
そんなことは、必要無い。
僕たちに必要なのは、
これからも 愛を育むことだろう?」

「うん」


恵倫子は、心がほっとする感覚を覚えながら、
優しい気持ちで 頷く。


「今、考えなおしたから言ったけど、

ちゃんと、直接に 言わせてください」


改まって 丁寧に言う陽音に、
恵倫子は、

「はい」

と、真摯に応えた。







空雲が 桃色に…


結晶の如く 実心の真心を包む…





快晴の日…





陽音は、恵倫子と響 とともに、

お互いの両親へ 会いに行った。



自分の両親へ、ふたりを紹介する。


恵倫子の両親へ、御挨拶をする。









そして… 大安吉日 …








花々満開に華々しく広がる 快晴の下、







陽音は、エンゲージリングを手に、


響を抱っこしている恵倫子に、プロポーズをした。








「恵倫子さん、

僕と、 結婚してください」




「はい。

宜しく お願いします」




響が、抱っこされたまま なんだか興奮気味に
きゃっきゃキャッキャと声を上げて、はしゃぐ。





陽音は、そんな響へ、優しく、

たくさんの思いやりの心を込めて、言った。



「ゆらちゃん、
無理に パパ って、呼ばなくてもいいからね。

ただ、
ゆらちゃんにも、伝えたくて、お話します。
聞いてくれるかな?」

「うんっ」


「ありがとう。

はるとおにぃちゃんは、ママの旦那さんになりたくて、
ゆらちゃんの パパになりたくて、
ママに 結婚してください、と言いました。

ゆらちゃんは、どうですか? いいですか?」


「いいよ!」


「ありがとう。

ゆらちゃん、よろしくおねがいします」


「よろしく おねがい しますっ」



陽音の言葉に、響は、元気良く 応えた。





響の元気なお返事と、

響にも丁寧に対応してくれる 陽音に、

恵倫子は、感慨無量に 涙を拭う…








そして…








陽音が、優しく 恵倫子の薬指に 指輪を嵌める…



恵倫子の左手薬指で 耀くリングが、


出逢った時の雨滴でなく、


照らす太陽に 美しく 光った…









ーーー












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