ただひとりの運命の人は、私の兄でした
あなたと離れる日
あなたの為にできること
「あおい、お帰り!!」
自宅に帰ると、光希がわざわざ玄関まで出迎えに来てくれた。その屈託のない笑顔を見ると、ツキンと胸に痛みが走った。
「ただいま、光希」
「どう?楽しかった?」
光希は私を本気で心配しているのだろう。不安げに瞳が揺れた。全くどこまでも清廉潔白な保護者だ。
「うん、みんないい子だった」
「……彼氏、出来そう?」
いつもとは違う心細い声が響いてきて、私は意外に思って光希の顔をまじまじと見つめた。
「あっ、……なんだろうね、あおいに彼氏が出来るって思ったら、寂しくなっちゃって」
「えっ」
「子離れ出来てないのかなぁ、僕って」
光希は肩をすくめて情けなく眉尻を下げたが、私はその言葉にぽかんと口を開けた。
子離れ。
私はあなたの子供くらいにしか思われていないのか。
一応これでも思春期の悩める女子なんだけど。あなたの中では昔から変わらずちんちくりんな子供なわけだ。
光希の呑気な発言のせいで、私は何だか無性に腹が立ってきた。
「子離れって……!もう、私だってもうハナタレの小娘じゃないんだからね!!光希のばか!!」
腹立ちに任せて光希の肩や胸のあたりをぽかぽかと拳で叩いてやった。
全く、こっちの気持ちも知らないで。少しは私の怒りを思い知るがいい!
「ははっ、イタイイタイ、やめてあおいっ」
「やめない!!光希のばか、鈍感、かっこつけ!!私だって、少しは大人になってるんだから!!」
叫んでいるうちに鼻の奥がつんとして、目の奥が熱くなった。
分かってる。本当にばかなのは私なのだ。
叶わない恋にいつまでも縋って、光希と可能な限り一緒に暮らそうとしている。
何かを期待する方が間違っているのに。
すると突然、光希が大きく手を広げて正面から私を抱きしめてきた。
刹那、私の頭に一気に血が昇った。
いつものムスクにまぎれて香る、光希自身の香り。私より熱い体温。厚い身体。
それらが間近に感じられた時、私は目眩でも起こしたかのように頭が真っ白になった。
「み、みみみ、光希……!?」
「あおい、ごめんね。レディに対して子供なんて言っちゃいけなかったね」
くすくすと笑いながら光希は私の耳元で囁いた。
心臓はあり得ないくらいに早鐘を打ち、私の思考回路はショート寸前になった。
「あ、いや、」
「……でもね、寂しいって思ったのはホントだよ」
「っ……、!!」
思いがけない言葉に驚き、光希の顔に目を向けた。
光希は今まで見た事も無いような表情をしていた。
切なさ、辛さ、慈しみ……そんなものがすべて混じったような、どう表現していいか分からない様な表情だった。
「それって、どういう……」
震える声で私が問いかけると、光希は苦笑した後にゆっくりと口を開こうとした。
まるで、時が止まったみたいに感じられた。一体、光希の口からどんな言葉が飛び出すというのだろう。
ごくりと私が唾を飲み込んだその時だった。
家のチャイムが陽気に鳴り響いた。
そこで私も光希もはっと我に返る。
「あっ、お客さんだ。ごめんね、あおい」
光希は慌てて私からぱっと手を離すと、インターフォン画面の方に向かって行ってしまった。
光希は一体、何を言おうとしたのだろう。
期待してはいけないと思っていても。あの切なげな表情は、いつもの余裕綽綽の光希とは全く違って見えた。
光希が私に触れていたところを、そっと指でなぞる。
ああ、好きだ。こんなにも好きだ。
指先がどんどん熱くなる。
戯れに光希が触れてきただけだというのに、私の身体はこんなにあさましく喜んでいる。
私のばか。
気持ちを落ち着かせようとしていると、ふいに光希から声を掛けられた。
「あおい、父さんが来てるんだ」
「あ、……光希のお父さん?」
「何だろうね、あまり良い予感はしないけど」
深いため息を吐いて、光希は父親を出迎える為に再び玄関に立った。
私の元父親であり、今は他人。そして、光希のお父さん。
ここには滅多に来ることがない。
確かに、良い予感なんてちっともしなかった。
自宅に帰ると、光希がわざわざ玄関まで出迎えに来てくれた。その屈託のない笑顔を見ると、ツキンと胸に痛みが走った。
「ただいま、光希」
「どう?楽しかった?」
光希は私を本気で心配しているのだろう。不安げに瞳が揺れた。全くどこまでも清廉潔白な保護者だ。
「うん、みんないい子だった」
「……彼氏、出来そう?」
いつもとは違う心細い声が響いてきて、私は意外に思って光希の顔をまじまじと見つめた。
「あっ、……なんだろうね、あおいに彼氏が出来るって思ったら、寂しくなっちゃって」
「えっ」
「子離れ出来てないのかなぁ、僕って」
光希は肩をすくめて情けなく眉尻を下げたが、私はその言葉にぽかんと口を開けた。
子離れ。
私はあなたの子供くらいにしか思われていないのか。
一応これでも思春期の悩める女子なんだけど。あなたの中では昔から変わらずちんちくりんな子供なわけだ。
光希の呑気な発言のせいで、私は何だか無性に腹が立ってきた。
「子離れって……!もう、私だってもうハナタレの小娘じゃないんだからね!!光希のばか!!」
腹立ちに任せて光希の肩や胸のあたりをぽかぽかと拳で叩いてやった。
全く、こっちの気持ちも知らないで。少しは私の怒りを思い知るがいい!
「ははっ、イタイイタイ、やめてあおいっ」
「やめない!!光希のばか、鈍感、かっこつけ!!私だって、少しは大人になってるんだから!!」
叫んでいるうちに鼻の奥がつんとして、目の奥が熱くなった。
分かってる。本当にばかなのは私なのだ。
叶わない恋にいつまでも縋って、光希と可能な限り一緒に暮らそうとしている。
何かを期待する方が間違っているのに。
すると突然、光希が大きく手を広げて正面から私を抱きしめてきた。
刹那、私の頭に一気に血が昇った。
いつものムスクにまぎれて香る、光希自身の香り。私より熱い体温。厚い身体。
それらが間近に感じられた時、私は目眩でも起こしたかのように頭が真っ白になった。
「み、みみみ、光希……!?」
「あおい、ごめんね。レディに対して子供なんて言っちゃいけなかったね」
くすくすと笑いながら光希は私の耳元で囁いた。
心臓はあり得ないくらいに早鐘を打ち、私の思考回路はショート寸前になった。
「あ、いや、」
「……でもね、寂しいって思ったのはホントだよ」
「っ……、!!」
思いがけない言葉に驚き、光希の顔に目を向けた。
光希は今まで見た事も無いような表情をしていた。
切なさ、辛さ、慈しみ……そんなものがすべて混じったような、どう表現していいか分からない様な表情だった。
「それって、どういう……」
震える声で私が問いかけると、光希は苦笑した後にゆっくりと口を開こうとした。
まるで、時が止まったみたいに感じられた。一体、光希の口からどんな言葉が飛び出すというのだろう。
ごくりと私が唾を飲み込んだその時だった。
家のチャイムが陽気に鳴り響いた。
そこで私も光希もはっと我に返る。
「あっ、お客さんだ。ごめんね、あおい」
光希は慌てて私からぱっと手を離すと、インターフォン画面の方に向かって行ってしまった。
光希は一体、何を言おうとしたのだろう。
期待してはいけないと思っていても。あの切なげな表情は、いつもの余裕綽綽の光希とは全く違って見えた。
光希が私に触れていたところを、そっと指でなぞる。
ああ、好きだ。こんなにも好きだ。
指先がどんどん熱くなる。
戯れに光希が触れてきただけだというのに、私の身体はこんなにあさましく喜んでいる。
私のばか。
気持ちを落ち着かせようとしていると、ふいに光希から声を掛けられた。
「あおい、父さんが来てるんだ」
「あ、……光希のお父さん?」
「何だろうね、あまり良い予感はしないけど」
深いため息を吐いて、光希は父親を出迎える為に再び玄関に立った。
私の元父親であり、今は他人。そして、光希のお父さん。
ここには滅多に来ることがない。
確かに、良い予感なんてちっともしなかった。