その恋、記憶にございませんっ!
 




 朝だ。
 今日は横に誰も立っていない、と唯は思った。

 昨日は、目を覚ましたら、スーツを着た男の人が布団の横に立って自分を見下ろしていて、びっくりしたが。

 いや……

 立ってたんだっけな? と遠い記憶を手繰り寄せるようにして思い出す。

 寝ぼけ眼のまま、訳のわからない話をずっと聞かされていたので、なにかちょっと記憶が混乱しているのだが。

 そうだ、違う。

 目を覚ましたとき、誰かが床に敷かれた布団の横に正座していて、自分の手を握っていたんだ。

 スーツを着たまま。

 ……あの人、本当に私になにかしたのだろうか?

 私と一夜を共にしたから、責任を取る――

 いや、責任を取れ、とまくし立てていたような気がするのだが。

 何故、私が責任を取らなければいけないのかは謎だが……。

 でも、あれ、全部夢かもしれないしな~。

 考えるのよそ、と唯は思った。

 そうだ。
 それに、昨日の丸一日が全部夢なら、今日は日曜のはずっ。

 やった!
 会社行かなくていいっ、と古い携帯を開けてみたが、やはり月曜日だった。
< 10 / 266 >

この作品をシェア

pagetop