その恋、記憶にございませんっ!
朝だ。
今日は横に誰も立っていない、と唯は思った。
昨日は、目を覚ましたら、スーツを着た男の人が布団の横に立って自分を見下ろしていて、びっくりしたが。
いや……
立ってたんだっけな? と遠い記憶を手繰り寄せるようにして思い出す。
寝ぼけ眼のまま、訳のわからない話をずっと聞かされていたので、なにかちょっと記憶が混乱しているのだが。
そうだ、違う。
目を覚ましたとき、誰かが床に敷かれた布団の横に正座していて、自分の手を握っていたんだ。
スーツを着たまま。
……あの人、本当に私になにかしたのだろうか?
私と一夜を共にしたから、責任を取る――
いや、責任を取れ、とまくし立てていたような気がするのだが。
何故、私が責任を取らなければいけないのかは謎だが……。
でも、あれ、全部夢かもしれないしな~。
考えるのよそ、と唯は思った。
そうだ。
それに、昨日の丸一日が全部夢なら、今日は日曜のはずっ。
やった!
会社行かなくていいっ、と古い携帯を開けてみたが、やはり月曜日だった。