その恋、記憶にございませんっ!
蛇に睨まれたカエルは自らフラフラと行くらしい……
散々呑んで、本田に送られ、機嫌良く翔太は去っていった。
蘇芳と唯は、店から唯のアパートが近かったので、二人で歩いて帰ることにした。
いや、一緒に送られてもよかったのだが、蘇芳が二人で少し歩きたい、と言ってきたからだ。
静かな夜の住宅街を歩きながら、蘇芳が言ってくる。
「なにか俺の方が乙女のようだな。
二人で歩いてみたいとか」
いやいや、それだと、なにかこう、私が情緒がないかのように聞こえるのですが、と思っている唯の横で、
「今日はいい一日だったろう」
と蘇芳は勝手に唯の今日一日の感想をまとめてしまう。
「颯爽と助けに来た俺の格好いいところが見れて良かったろ?」
と言ってくるので、
「格好いいところじゃなくて、意外に小器用なところが見れましたよ……」
と唯は言った。
結局、蘇芳があのガムテープを全部剥がし、手すりについていたベタベタも大家さんに雑巾を借りて綺麗にしてくれたのだ。
もちろん、唯も手伝いはしたが、蘇芳の方が遥かに要領が良かった。