その恋、記憶にございませんっ!
 夜になると、さすがにまだ少しひんやりとしていた。

 だが、酔った今の状態には、それが心地よく感じられる。

 薬局の前に、ところどころ色のハゲた、いつも笑っているカエルのマスコットが立っていたが。

 大丈夫。
 今日は、別に誰も連れて帰りたくならない、と唯は思った。

 なんとなく、あの夜のことを思い出していた。

 みんなで楽しく呑んだあと、ひとりになると、妙に寂しくなった。

 このまま一人で暮らしているあのアパートに帰るのかと思ったら、誰かと一緒に帰りたくなってしまったのだ。

 無害な作り物のおじさんを連れて帰ったつもりだったのだが……。

 街灯りの中、夜道を歩きながら、ずっと考えていた気がする。

 翔太さんと結婚したら、家に帰っても一人じゃないだろう。

 だけど、それは誰かが居る、というだけで。

 誰かが待っていてくれるから、安心する、というだけで。
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