その恋、記憶にございませんっ!
よく考えたら、なんでこの人と帰ってきてしまったのかな?
部屋に入ってから、唯はようやくそのことに気がついた。
此処まで送ってきてくれたから。
うん。
まあ、そうかもな、と思う。
今、差し向かいでお茶を飲んでいる。
うん。
まあ、送ってくれたから、お礼だな。
今、なんか腕をつかまれた。
お礼の範疇を越えてきたぞ。
キスして来ようとしているようだ。
……完全にアウトでしょうっ。
此処は叫んでいいだろうっ、と思い、
「やめてくださいっ!」
と叫んだつもりだった。
だが、蘇芳の大きな左手で口を塞がれていた。
しかも、弾みで、すっ転び、仰向けに倒れた自分の口を蘇芳の手はまだ塞いでいる。
がっちりと握られた自分の左腕を見ながら、この体勢、ほぼ強姦魔ですよっ、と唯は思っていた。
「騒ぐな。
近所に聞こえるだろ?」
と蘇芳は自分を見下ろし、言ってくる。
……そのセリフも強姦魔っぽいですよ、と思いながらも、身動き出来ず、固まっていた。